<WBC:日本4-3台湾>◇8日◇2次ラウンド1組◇1回戦◇東京ドーム

 神様!

 仏様!

 井端様!

 日本の絶体絶命のピンチを、井端弘和内野手(37)が救った。9回2死二塁から起死回生の同点中前打。延長戦に持ち込み、奇跡の逆転勝ちを呼び込んだ。8回先頭でも中前打で攻撃の起点になり、1回の中前打を含め3安打猛打賞。守っては二塁から一塁へ回るなど攻守にフル回転し、決勝トーナメント進出へ勢いをつけた。

 ニヒルな表情の井端が、喜びを爆発させた。1点を追う9回2死二塁、2ボール2ストライク。あと1球で試合終了という場面。井端の打球は、遊撃手の頭上をライナーで越えた。興奮のあまり、右手のガッツポーズがうまくいかなかった。「とにかく負けられない。追い込まれて、腹をくくって自分のスイングを心掛けた。打席でも冷静だったけど、打った後は覚えていません」。起死回生の同点打。崖っぷちに突き落とされる寸前、一太刀で侍ジャパンを救いだした。

 2点ビハインドを8回表に追いつくも、直後の8回裏、頼みの田中が勝ち越し点を許した。米国決勝トーナメントへ、負ければ後がなくなる一戦。台湾の守護神、陳鴻文を相手に1点を追う9回も1死。万事休すか…。さすがに諦めムードも漂い始めた時、9番鳥谷が勇気を振り絞った。

 1死から四球で出塁。一塁ベースコーチャーの緒方外野守備走塁コーチから陳鴻文のクイックの遅さを伝えられ、腹をくくった。1番長野が中飛に倒れ、2死一塁で2番井端。けん制球を1球挟まれた直後、初球にスタートを切った。「クイックが早くないと教えてもらって、行けたら行っていい、と。チャンスがあったら、行ってやろうと思っていた」。アウトになれば試合終了。単独スチールとなる二盗を間一髪で決め、「後は井端さんに託しました」。井端は真ん中145キロを中堅左に打ち返した。「トリがよく走ってくれたから、打てた」。チームが1つになった瞬間だった。

 井端は今、37歳。ひとつの転機が男を変えた。08年オフ、元テレビ朝日のアナウンサー、河野明子さんと結婚。独身時代は夕食後にコンビニのデザートを腹いっぱい食べるのが習慣だったが、愛妻に禁じられた。代わりに毎朝用意されたのは、栄養満点の朝食だ。それまで朝食をとる習慣はなかった。ベテランと呼ばれる年齢に差し掛かった男の体は愛妻によってよみがえり、侍ジャパンを力強く引っ張っている。

 2点を追う8回にも先頭で中前打を放ち、この回2得点の同点劇もお膳立てしていた。3安打の結果以上に、その立ち居振る舞いがナインを鼓舞している。最後は延長10回の死闘に勝利し、苦笑いで言った。「明日はゆっくりして、(明後日は)楽な試合でアメリカに行きたい」。サンフランシスコへの扉を、いぶし銀がこじ開けた。【佐井陽介】