王者山中慎介(32=帝拳)が苦しみながらも、日本歴代4位タイとなる9度目の防衛に成功した。前WBA同級スーパー王者アンセルモ・モレノ(30=パナマ)と対戦。WBA王座を12度防衛し「幽霊」の異名を取る鉄壁の防御を崩しきれず、9回には右フックにぐらついた。10回から捨て身のラッシュで反撃してポイントで逆転。僅差2-1の判定で勝利を収め戦績を24勝(17KO)2分けとした。
捨て身の猛攻だった。ポイントでリードを許して迎えた10回。ゴングと同時に、山中はわずかに目を見開いた。「頑張ればまくれる。ここからが勝負。行くしかない」。信じたのは自身を世界王者へと導いたワンツーだった。パンチが空を切っても、手を出し続け、ついにとらえた。モレノの顔面に左を打ち込むと、体勢を崩しながらも右を続けた。クリンチで逃げるのが精いっぱいの相手にさらに連打。終盤3回での大逆転で、土俵際から勝利をつかみ取った。
1回終了時、コーナーに戻るとセコンドに「楽しい」とつぶやいた。試合が発表された7月10日から、さかのぼること2週間。練習中に本田会長から言われた。「モレノに決まった」。山中は深呼吸し、思わず拳を握り締めた。「勝負やな」。勝ち続けるたびに、名のある選手から対戦を避けられるようになっていった。長く求めていた、心底強いと思える相手と戦える喜びは、リングで拳を交えた時に再確認できた。
KOを量産してきたV8戦までと明らかに違う展開だった。中盤は完全にモレノのペース。ジャブの差し合いで劣勢に回ると9回には右のカウンターを合わされ、ぐらついた。「バンタム級頂上対決」の呼び声にふさわしい息詰まる技術戦。指を3センチ程度広げ「これだけ距離が遠かった」と唇をかみしめた。ダウンを奪えなかったのは12年4月の初防衛戦以来。それでも「悔しさはあるが、ほっとした。最後は気持ちだった」。表情からは達成感もにじみ出た。
試合が近づくにつれジムで見せる目は鋭さを増した。「ここ数戦は『負けたら終わり』と自分を追い込んでいたが、今回はただモレノに勝ちたい」。根底にある勝利への泥臭い感情が再びわき上がった。スパーリングは過去最多150回を消化。トレーナーに催促されても相手の研究をしなかった男が、ジムまでの移動中にモレノの映像を繰り返し見た。
来月には33歳を迎える。「これから数試合でどこまでいけるか」。厳しい戦いを乗り越え、ボクシング人生は集大成へと突き進む。陣営は次戦でWBA同級スーパー王者ファンカルロス・パヤノ(31=ドミニカ共和国)との統一戦を目指して交渉を進めていく方針だ。もちろん米国のリングへの強い憧れも消えていない。プロキャリア最大の接戦を制し、山中はさらにすごみを増す。【奥山将志】
◆山中慎介(やまなか・しんすけ)1982年(昭57)10月11日、滋賀・湖南市生まれ。南京都高1年でボクシングを始め、3年時の国体で優勝。専大ボクシング部で主将。06年1月プロデビュー。10年6月に日本バンタム級王座、11年11月にWBC世界バンタム級王座獲得。家族は妻沙也乃さん(30)と長男豪祐君(2)長女梨理乃ちゃん(1)。身長171センチの左ボクサーファイター。

