王者山中慎介(34=帝拳)が挑戦者の同級6位カルロス・カールソン(26=メキシコ)に7回TKOで勝ち、12度目の防衛を果たした。具志堅用高が持つ、日本男子の世界戦連続防衛記録13回に王手をかけた。

 山中には12戦目にして初めての「カンフル剤」があった。長男豪祐君(4)が折り紙を使って手作りしてくれた特製ベルト。「WBCの『W』の字を書くのが大変だったみたいで。泣けてきましたね」と最高の贈りものになった。沙也乃夫人からも布地のベルトをもらった。家族のため―。先月23日に練習を公開した際には、「12度目なんで、もうちょっと早くもらっても」と冗談も口にしたが、「うれしかった」と目尻を下げた。

 昨年9月、WBA王座を12度防衛したモレノとの再戦を制した。業界で最も権威ある米専門誌「リング」のチャンピオンベルトが懸けられた「バンタム級頂上決戦」に勝ち、そのベルトも1月に手元に届いた。5年以上保持するWBCベルトと合わせ、計4本。だからこそ、負けられなかった一戦だった。

 「守るという意識はない」。防衛を重ね続けても変わらない勝負哲学がある。興味深いデータがその実像を語る。V9、V11戦で拳を交えたWBA王座12度防衛の最強挑戦アンセルモ・モレノ(パナマ)。その2試合のラウンド平均ジャブ数を比較すると、第1戦が44・1回。第2戦は32・4回と極端に減る。大和トレーナーが理由を明かす。「白黒をはっきりつけたかったので、ジャブの数を抑えたんです」。2-1の判定勝ちだった初戦を受けての再戦。自らが望んだ変化だった。

 山中は「ジャブの数を増やせば勝てる」と初戦から確信したが、2戦目の選択は違った。同じサウスポーのモレノが前に重心を残す時は左ストレートを打ってこないと見抜くと、勝機を見た。相手の右ジャブに合わせ、いきなり「神の左」を打ち抜く。安全に距離感を測るジャブの数は減った。間合いが詰まりリスクもあったが、攻める気概を貫いた。結果、7回TKO勝利。大和トレーナーは「そういう気持ちを持っているから防衛できる」と説く。山中本人は「毎試合、いつもチャレンジです」と話す。攻めるからこそ、偉業に近づいた。