世紀の不可解判定だ。ロンドン五輪金メダリストで同級2位村田諒太(31=帝拳)が、同級1位の元世界王者アッサン・エンダム(33=フランス)に挑んだ世界初挑戦は、4回にダウンを奪うなど優勢とみられたが、1-2の判定負け。五輪メダリストとして日本人初の世界王者には届かなかった。本人は不平を口にしなかったが、帝拳ジム本田明彦会長や周囲からは疑問や怒りの声が噴出した。

 村田は「胸騒ぎがした」と判定前の心境を振り返った。「ロンドン五輪の決勝は勝ったなと思っていたんですけど、今日は手が上がる前に変な予感はしていました」。結果が読み上げられる。1-1で迎えた3人目。悪い予感は的中する。115-112、呼ばれたのはエンダム。瞬間、村田はがっくりとうなだれた。会場には、どよめきとブーイングが交錯した。

 所々赤く腫れ上がった、プロでは初めての試合後の顔で、「結果は結果なんで。僕自身がどう受け止めたかではない。第三者の判断が全てですから」と言った。言い訳はしない。ただ「胸騒ぎ」という感情からは、勝利の確信があったことは十分うかがえた。

 ボクシングは採点競技。アマ、プロを通じて151戦目、それは痛いほど分かる。エンダムの手数の多さを優勢とみたことも分かる。ただ不可解な気持ちは時折見せる笑顔の下に隠した。「もう1、2回ダウン取れば勝てる試合だった。それが原因」。自分に理由は求めた。

 作戦は貫徹した。初回から堅いガード越しに好機をうかがう。周囲を回るエンダムをとらえる瞬間を探った。2回から右ストレートを打ち抜き始めた。あえて単発の豪打を続ける。4回、無駄がない軌道の右拳での一撃が、エンダムの顎をとらえる。ダウン。ガードを固めて前に出て打つ。単純だが、最大長所の作戦は間違っていない。ぶれずに12回を戦い抜いた。その精神力は見事だった。

 結果は予想外だった。世界的プロモーターで帝拳ジムの本田会長は「ひどすぎる。作戦通りで完璧だった。今までで一番最低の採点だ。負けは絶対にない」と声を荒らげた。WBAの立会人も村田を支持していたという。同ジムで村田の先輩となるWBC世界バンタム級王者山中も「全部、上回っていた。ジャッジに対してショック」と述べた。

 村田は今後について、「気持ちの整理は必要です。集大成として見せたいところが今日だった。負けたからもう1回頑張るんです、とは言えない。簡単な日々を歩いてきたつもりはないので」と話した。ミドル級は世界の花形階級で、世界戦を日本で組めたのは異例中の異例だった。機会をつくってくれた周囲を裏切る結果に、落胆は大きい。

 本田会長は「4年間この試合のためにかけてきた。再戦はやる気はない。本人には申し訳ないけど」と苦しい胸の内を明かした。世紀の大一番は、大きな疑問を残して終わってしまった。【阿部健吾】