WBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥(24=大橋)が同級2位リカルド・ロドリゲス(27=米国)を3回1分8秒KOで下し、5度目の防衛に成功した。同会場で5つの世界タイトル戦が行われた2日間の最後に登場し、盤石のKO締め。途中、サウスポーの構えに変化する大胆さも見せ、9月に控える米国デビュー戦にも弾みをつけた。

 2回中盤だった。井上が右構えからサウスポースタイルに変化した。「やってみようかな」。スパーリングでは試してきたが、習熟度から試合では使わないと話していたが…。「気持ちの余裕があって。相性的にも試してみようと」。初回で距離感をつかむと、封印するはずだった新兵器を解禁した。その軽快な大胆さこそ「怪物」のすごみ。世界戦も、成長への実験の場。スイッチ直後に左ストレートを顔面に打ち込み、ロドリゲスのひざを折った。

 使える。1つの実験結果を得ると、あとは仕留めるだけだった。3回、構えを右に戻すと、左フックで吹っ飛ばしてダウン奪取。一気に前に出る。最後も左フックでキャンバスに沈め、軽量級では珍しい10カウントを聞かせた。「フルパワーでは打ってない。7、8割ぐらいですね」と振り返るから恐れ入る。

 昨年末のV4戦を終えて取り組んだのは下半身強化。力を拳に伝える基盤を鍛え、さらなるパワーアップを狙った。熱海で2度、計9日間の合宿で砂浜や階段、坂道を使って追い込んだ。「強くなっている感覚がある」と手応えを口にしたが、筋肉量が増えてもスピードが衰えない秘密は、幼少期からの心掛けにある。

 合宿中、瞬発系トレーニングではインターバル(休憩時間)が取られたが、その時に欠かさずシャドーボクシングを繰り返す姿があった。父真吾さんが「筋肉をつけても使えないと意味がない。筋肉にボクシングの動きを教える」と小さい頃から取り組ませた独自の習慣。実際に筋肉を動かすのは神経のため、動きを伝える地道な作業の繰り返しが、パワーとスピードを高次元で兼ね備える井上の強さを生んでいる。

 前夜にはWBA世界ミドル級王座決定戦の村田の不可解判定のことも聞いていた。集まったファン誰もが納得する勝利。「KOが一番分かりやすい。ボクシングですから」と有言実行してみせた。同時にこのKO劇は、9月に予定する米国デビューへも最高のアピールになった。「9月といっても、あと3カ月。体調をコントロールすることですね」。本場を震撼(しんかん)させる準備は整った。【阿部健吾】