13度目の正直だった。小結隠岐の海(30=八角)が13度目の対戦で、初めて横綱白鵬(30=宮城野)を倒した。

 支度部屋での開口一番「やったぜ! よっしゃ~」と喜んだ。そして「13回目ですか。長かったなぁ」。しみじみと喜んだ。

 初日の結び。立ち合いで1度、突っかけてしまった。そのことを「申し訳ない」と言いつつも「先手、先手でいかないと。待ったしてもいいという気持ちでいかないと、勝てない。右を差された時点で負けますから」。

 本来は右を差し合う、右四つ同士。だが、横綱の得意の形にさせないことだけを考えていた。そして2度目も、立ち遅れなかった。左からのおっつけで、右を差させない。嫌った横綱が引いた。それを待っていた。

 「引いてくるのは分かっていた。あの引きを食わなければ、次のチャンスがあると思っていた。自分ら凡人が語る攻略法ですけど」

 足が出る。すかさず左を差して、左四つに。そのときから意識がなく「覚えていないです」。無意識に右を巻き替えて、一瞬もろ差しになった。同じく右を巻き替えに来た横綱の上体が起きた瞬間が、2度目の前に出るチャンス。そこも無意識だった。「最後に両方入る(差せる)とは思わなかった。何だろう。今日は力が出た」と笑った。正攻法で最強横綱を倒した。飛び交う座布団が心地よかった。

 懸賞の束は50本。直に150万円も手にした。使い道を聞かれると「墓場まで持って行きます」「今日はもう抱えて寝ます」と冗談も交えた。「稽古しないと言われてきて、それに負けずに勝てて良かった。そろそろ『稽古力士』と大々的に書いてください。見せない稽古をしているんです」と求めるほど、興奮はなかなか隠せなかった。

 これ以上ない、さい先の良いスタート。ただ、風呂から上がると、気持ちは自然と切り替わっていた。「これからです。1勝は1勝。15日間終わって、いい1勝だったなと思わないといけない。明日です」。勝ってかぶとの緒を…。会場を引き揚げる際の表情は、きりりと引き締まっていた。