<大相撲九州場所>◇14日目◇24日

 横綱千代の富士(35=九重)が、大鵬の大記録、幕内優勝32回にあと1と迫った。勝てば優勝の旭富士との一番に、終始頭をつける慎重な相撲で寄り切り。同時に北の湖の持つ幕内最多勝804勝と並び、偉業に花を添えた。休場明けの優勝も横綱昇進後9回中6度と、改めて強さを見せ付けた。

 不屈の闘志が戻ってきた。場所前にささやかれた引退の声に反発するような気迫が、土俵上にほとばしった。旭富士の左上手を切り、一瞬の間を置いて万全を期す。そして怒とうの寄り。最後は全盛期をほうふつさせるような、ほうり投げる寄り切りだった。

「危なかったけどね。あす取って決定戦になるよりはいいから」と、10度目の14日目優勝決定にホッとしたように話した。大鵬の残した幕内優勝32回に、あと1回と迫った。今年1月の初場所から、10カ月ぶりに味わう優勝の実感。横綱になってから、過去に優勝と優勝の間がこれほどあいたことがないだけに、「久しぶりだね」という声に感情がこもっていた。

 休場明けもこれで、横綱昇進以来9回のうち6回優勝。「普通の者だったら、場所前のあんな状態じゃ出られるわけないよ。毎日一緒に生活しているけど、どこからあんな力が出てくるのかオレも分からない」と師匠の九重親方(元横綱北の富士)も復活劇に舌を巻いた。引退に対する反発もある。

 しかし、それ以上に若手の台頭に対する横綱としての意地があった。今場所調子が上がってきたのも8日目の安芸ノ島、10日目の琴錦戦に圧勝してからだった。

 幕内勝ち星も、北の湖の持つ史上1位の804勝に肩を並べ、単独1位も確実となった。左足太ももの肉離れで「もう優勝は無理かも」とあきらめたこともあった。それでも出場に踏み切ったのは来年初場所と2場所かけて、何とか記録を達成しようという気持ちがあったからだ。「次から次に新しい記録も励みになる」と言う。内臓の丈夫さや、並外れた精神力の強さに加えて、丸10年横綱を張る千代の富士だからこそ出てくる記録が、今や大きな支えだ。

 そして、さらに大きな目標が目前に迫った。大鵬の32回の幕内優勝。「まだ若いんだから」と勢いよく立ち上がった横綱は、新たな自信にあふれていた。

 大鵬親方の話 31回目の優勝。すごいの一語に尽きる。私の32回優勝はもう追いつく者はいないと思っていたんだが、千代の富士が来ました。抜かれるのは時間の問題だが、体は大して大きくないのにあの精神力、ファイトはいうことない。

 北の湖親方の話 (804勝は)現役の最後で体もがたがたで、自分のことで必死だったからよく覚えていない。ただ(千代の富士は)今の調子なら接近している記録は全部破るんじゃないか。横綱勝利数も破っていくでしょうし、32回優勝も可能性大。この勢いで突き進むのではないだろうか。

 久美子夫人(31)の話 テレビで応援してましたが、さすがに力が入りました。ケガが再発せずに終わればいいと思っていたんですが、こんな素晴らしい結果になるなんて……。うれしいけれど、信じられない気持ちが先ですね。上の子供(優ちゃん)も小学生になって、私が教える前にきょう勝てば優勝だと知っていました。もう、テレビの前で大騒ぎ。でも、本当に改めてビックリ。すごいなあ、と思っています。