まさに「無」の勝利だった。東前頭2枚目の北勝富士(25=八角)が横綱日馬富士(33=伊勢ケ浜)を寄り切って、2個目の金星を獲得した。だが、喜びよりも不思議な顔。それもそのはず。「意識が飛んだっす。(立ち合いで)当たったときにガツンとなって、気づいたら横綱が土俵際で…。組んでいたんですか? 覚えていないです」。

 立ち合いの衝撃で意識が飛び、右を差されて俵を背負った。だが、左からいなして、うまく回り込む。最後は右上手を引いて寄り切り。館内を驚嘆させたその一連の動きも、断片的にしか記憶になかった。座布団が飛び交い、懸賞も手にしたが「本当っすか? あまり覚えていない…」。それでも、金星を手にしたことはまぎれもない事実。「うれしいっすよね。10歳から相撲をやってきて、ずっとこの結びの一番にあこがれていた。初めての結びで楽しもうというか、みんながみんな結びを経験できるわけではないので、一生懸命できることをやろうと思ってやりました」。

 体が自然と反応し、無の境地でつかんだ2場所連続の金星。「意識が飛んだのが良かったですね。肩に力が入らなかった。早く映像が見たいなぁ」。横綱、大関戦を3勝1敗で終えた期待の若手は取組を振り返る瞬間を、今か今かと待ち切れない様子だった。