男子柔道の古賀が左ヒザを負傷、金メダル獲得がピンチとなった。日本選手団の旗手でもある71キロ級の古賀稔彦(24=日体大助手)が、バルセロナ到着から一夜明けた20日午後の練習中、78キロ級の吉田秀彦(22=新日鉄)との乱取りで、古傷でもある左ヒザをひねった。すぐに練習を中断、アイシングしたが、古傷とあって21日は休養に充てる。25日の開会式には日本選手団の旗手としての大役もあるが、開会式参加も微妙となった。

 「痛えっ」。古賀の絶叫が、バルセロナ市内のパドレナセンターに響いた。吉田との乱取り中、古賀の背負い投げに吉田が返し技を出し、逆に古賀がこらえる形となった時にアクシデントが起きた。右足が滑って、左ヒザを内側にひねった。その瞬間、二人の全体重がかかったのだ。

 苦痛に顔をゆがめる古賀。驚きとショックの吉田。一瞬、道場は静まり返った。「どうした」。上村監督が、吉村コーチが、慌てて古賀のもとに駆け寄った。選手たちが心配そうに、苦痛に両手で顔を覆う古賀を囲んだ。

 古賀にとって、左ヒザはヒジと並んで古傷。得意の立ったままの背負い投げは、相手の全体重を支えるためにヒザへの負担も大きい両刃の剣。ヒザは、いつ爆発するかわからない爆弾だった。昨年10月にも痛め、今年初めの欧州遠征参加を取りやめたばかり。その爆弾が、一番大事な五輪本番直前に爆発したのだ。

 治療のために、道場の隅に移動する時も、ヒザは曲がらず。しりをついたまま、両手でやっと体を動かしたほど。急いで氷で冷やしたものの、古賀の顔は引きつったまま。心配そうな吉田に対し、笑顔で「大丈夫」といってみせたものの、重苦しい雰囲気が、事の重大さを表していた。

 他の選手が乱取りを続けるのを横目に、この日の練習は中止。きょう21日も休む。詳しいケガの状態は明らかにされなかったが、じん帯まで及んでいれば一大事。そこまでひどくなくても、わずか1週間後に試合を控えているだけに心配は尽きない。

 古賀にとって、さらにショックなのは、金メダルへのカギを握る減量が残っているということだ。リミットの71キロまで、残りあと3キロ。「(練習できなくても)食事でなんとかします」と本人はいうが、「練習しながらの減量なら筋力も落ちない。しかし、練習しないと、たとえ体重は落ちても筋力もガタ落ちになる」と、藤猪コーチはいう。

 柔道の私塾、講道学舎の後輩でもある吉田との練習は、五輪直前になってから積極的に行ってきた。「相手が、本気でこないと練習にならないから」と、東京での最終合宿では、「決勝までの5試合を考えて」(古賀)5分の乱取りを5本続けたほどだった。二人の乱取りは本番さながらの真剣勝負。しかし、それが逆にアダになってしまった。

 「階段も足を引きずりながら自分で降りれた。詳しいことは明日になってみないとわかりませんが」と、古賀は努めて冷静に話した。しかし、左ヒザを負傷したことが、金メダルどりへのハンディとなることは間違いない。「ベストの状態でなくても、やらなくてはいけないですから」。そう言った古賀の表情からは、世界選手権3連覇中で優勝候補筆頭と呼ばれている王者の余裕は消えていた。