脚本家倉本聡さん(81)が来年1月から3月にかけて全国巡演する富良野GROUP公演「走る」を最後に演劇活動から引退することを明らかにした。

 倉本さんはドラマ「北の国から」「前略おふくろ様」などのドラマ脚本家として知られるが、80年代に活動の拠点を北海道・富良野に移し、84年に俳優・脚本家養成の私塾「富良野塾」を創設。「谷は眠っていた」「屋根」など自作を演出する公演を行い、10年の閉塾後も、卒業生の集団「富良野GROUP」を率いてきた。

 「走る」は倉本さんの作・演出で、「マッスル・ミュージカル」で知られる中村龍史さんが共同演出で参加する。今回の公演で引退を決めた理由について倉本さんは「もう年だし、目が悪くなって、出演者の名前もよく覚えられなかったり、体も衰えた。演劇活動をやるには、もう体が続かない。全力疾走のマラソンをやってきて、もう疲れた。走りすぎたし、どこかで走ることをやめなくちゃいけない。書き手がいないと、富良野GROUPは続かないし、もうおしまいにしようと思った」と話した。

 実は、今年初めに全国巡演した舞台「屋根」で舞台演出から退く意向だった。しかし、思った以上に観客が集まったという。そのためもあって、今回の巡演でも共同演出の形で名前を連ねることになったが、倉本さんは「20年以上も閉店セールをした大阪のお店じゃないけれど、今回で本当に最後です」と言い切った。

 演出家蜷川幸雄さんは80歳で亡くなるまで「生涯現役」にこだわり、病床でこれから演出する予定だった3冊の台本を手放さなかった。83歳の演出家浅利慶太さんは2年前に自ら創立した劇団四季の代表を降り、老いと戦いながらフリーの立場で演劇活動を続け、12月には四季を創立した54年に初演したアヌイ作「アンチゴーヌ」を演出する。

 倉本さんも演劇活動から引退するが、脚本の仕事は続ける。来年放送予定のテレビ朝日系連続ドラマ「やすらぎの郷」はテレビに貢献した人だけが入れる老人ホームの話で、脚本を書き上げたばかりという。ただ、「依頼があると、以前はすぐ飛び付いたけれど、今は決心するまで時間がかかる」と微妙な違いを口にした。富良野で行っている「自然塾」などの活動も継続する予定という。舞台では原発や農業問題など日本が直面する問題に迫る作品が多く、倉本さんのような社会派の舞台は貴重な存在だっただけに、心変わりしての「演劇活動」再開を期待したくなる。【林尚之】