◆ラヴレース(米)

 18歳の年末に公開されたのが「エマニエル夫人」であり、邦題「喉の奥深く」の「ディープ・スロート」はその翌年だった。私事ながら欧米ポルノの大きな波が成人映画解禁時に重なっている。

 シルビア・クリステルの非の打ちどころのない美しさに興奮させられた前者に対し、後者は当時の税関にずたずたにカットされていた。純な青年にとって「口技」は遠い世界の話であり、絶頂時にロケットの発射シーンが挿入される演出には感情のやり場に困った記憶がある。米国公開時に多くのセレブが支持した「屈折した面白さ」は今だから理解できることである。

 この異色のポルノ「ディープ・スロート」の製作秘話が表裏から描かれる。表は厳格な両親に育てられた少女が年上の男性と恋に落ち、自己顕示欲をくすぐられながらポルノスターに上り詰めていく物語。裏は男のDVに悩まされ、「商品」として従属させられる悲しいストーリーだ。

 ドキュメンタリー畑のロバート・エプスタインと劇映画編集出身のジェフリー・フリードマンの共同監督は当時のポルノの二面性を巧みにあぶり出す。表現の自由の象徴となる一方、暴力と搾取にまみれ、ギャングの資金源となる。製作秘話の表裏とそれぞれが重なり、明暗の二重構造はすっきりと分かりやすい。

 伝説のポルノ女優リンダ・ラヴレースを演じるのは一昨年「レ・ミゼラブル」のコゼット役で光ったアマンダ・セイフライドだ。笑顔の裏の憂い、悲しげな顔に時折のぞく恍惚(こうこつ)。すっきりとしたストーリーの中で、この人の一筋縄ではいかない演技が際立っている。28歳にして技巧派だ。【相原斎】