◆さよなら歌舞伎町(日)

 新宿歌舞伎町のラブホテルを舞台に、5組のカップルと関係者が2時間15分の間、入れ代わり立ち代わり現れては人間の性をさらす。それでいて、見ている瞬間に描かれないカップルも頭の片隅から離れない。オリジナル脚本を手がけた荒井晴彦氏はメディア資料の中で「若い子たちは群像劇という言葉も知らない(中略)こう作るんだという見本を見せて上げよう」と語っているが、群像劇の楽しさを再認識した思いだ。

 染谷将太演じるラブホテルの雇われ店長と、前田敦子演じるミュージシャン志望の彼女を軸に物語は展開する。韓国に帰り、母とブティックを開く予定のデリヘル嬢役のイ・ウンウは、韓国の異才キム・ギドク監督に見いだされた注目株。そのデリヘル嬢の常連客役の村上淳、都会の片隅に隠れて暮らす男女役の南果歩と松重豊ら出演陣は豪華だ。その多くが、わずかなスケジュールをひねり出し、13年12月に2週間行われた撮影に集結。作品にほれた全員の熱い思いがスクリーンからにじみ出るようだ。

 何より、82年にピンク映画でデビューした広木監督が描く歌舞伎町のラブホテルが実に生々しい。ラブホテルで逢瀬(おうせ)を繰り返した数が多ければ多いほどツボにはまるはずだ。【村上幸将】

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