平成以降では、和央ようかに次ぎ2人目の6年超え在位の星組トップ、柚希礼音の退団公演「黒豹(くろひょう)の如(ごと)く」「Dear DIAMOND!!-101カラットの永遠の輝き-」が、兵庫・宝塚大劇場で上演中だ。近年、宝塚を引っ張ってきた「顔」が未来のリーダーたちへメッセージを残した。宝塚公演は3月9日まで、東京宝塚劇場は3月27日~5月10日まで。

 圧倒的な存在感、ダイナミックなダンス、熟成された男役芝居のトップ・オブ・トップ。最後の公演でも、自作詞曲「たからづか」を披露している。

 「(昨年11月の)武道館公演でファンの皆さま、仲間への言葉を書いたので、夢みたいな世界の宝塚だけれど、実際には夢だけではない。簡単な気持ちじゃ何もつかめない。そんな気持ちを表現しました」

 後輩へのメッセージを込めて歌い上げるショーは、テーマがダイヤモンドだ。

 「ダイヤモンドに例えていただくことが、人生であるなんて! (演出の藤井)大介先生からも『下級生のころは、粗削りの原石…というか岩!』と言われ。そうだ、岩だったな~と」

 99年の初舞台「ノバ・ボサ・ノバ」新人公演では、いきなり出世役のドアボーイに抜てきされ、09年に11年目でトップに就いた。スピード出世ゆえ、実力不足と劣等感との闘いだった。

 「なぜこんなに粗いのか、下手なのか…怒られてばっかり。星組って家族的だから、誰も放っておかない。上級生から『(柚希が)相手じゃ泣けない』とか、よく言われた。私、本当にダメだったから」

 劇団の廊下で芝居、歌とともに自主げいこを重ね、上級生も付き合ってくれた。

 「私は最初から何でもできたと思っている下級生もいると思うんですけど、違う。でも、もがけば、ちょっとは良くなるから! 怒られてきてよかった。だから下級生にも『今、こんなん言うたらうっとうしいやろな』と思っても、言う」

 入団4年目。新人公演で主演したとき、本公演では主演の安蘭けいがソロで締める場面、柚希は歌唱難を理由に外された。新人公演とは、本公演の本役をそのまま演じるもので、衣装でさえ原則同じだ。

 「本当に外されることもあるんだ! って。それで、一生懸命にけいこして、本番では歌わせてもらった。もう毎回、転んだら次はないって思ってたから」

 最後の芝居は、名作「うたかたの恋」などを手掛けたベテラン、柴田侑宏(ゆきひろ)氏の10年ぶり新作。「黒豹」と呼ばれる第1次大戦後のスペイン海軍大佐を演じる。

 「伸び伸びと駆け回る黒豹、ショーもそういうふうに。集大成と思うと肩の力が入るので、終わりではないかのように楽しく」

 退団後も芸能活動を続けるとみられるが、今はトップの美学を極めることに専心。ショーでは組子にみこしでかつがれる場面もある。最終2日間のサヨナラショー、最後の階段下りも「まだまだ悩み中」と笑う。

 というのも昨年12月、宙組トップ凰稀かなめは、黒えんび服か羽織はかまの正装が恒例の大劇場最後のあいさつで、真っ白な軍服姿で現れ、驚かせた。「ね~! でも、それが似合うもんな~」。凰稀は星組時代、先輩の柚希を慕い、自身も凰稀をかわいがってきた。対抗心もある。「私は王道か、新しいのか。悩み苦しみます」。去り際も熟考を重ね、最後まで美学を追求する。【村上久美子】

 ◆黒豹(くろひょう)の如(ごと)く(作=柴田侑宏氏、演出・振り付け=謝珠栄氏) 柚希ふんするスペイン海軍大佐が、かつての恋人で夫を亡くしたカテリーナ(夢咲)と再会して描く大恋愛劇。芝居でもダンス場面があり、ダンサーとしての魅力を存分に発揮。

 ◆Dear DIAMOND!!-101カラットの永遠の輝き-(作・演出=藤井大介氏) リベルタンゴで幕開け、みこしでサヨナラ演出。99年初舞台「ノバ・ボサ・ノバ」新人公演で演じた出世役・ドアボーイの成長も描かれる。

 ☆柚希礼音(ゆずき・れおん)6月11日、大阪生まれ。99年「ノバ・ボサ・ノバ」で初舞台。星組配属。00年ベルリン公演選抜。09年4月、生え抜きで星組トップ就任。昨年11月、真矢みき以来、16年ぶり2人目の日本武道館公演。5月10日付の退団までトップ在位は6年13日と、近年異例の長期。3月13、14日は大阪で、同16、17日は東京で初のディナーショー。身長172センチ。愛称「ちえ」。