三浦友和(63)が理想の家庭を作ることに失敗した父親を演じた。無差別殺人事件を起こした男と、その家族の壮絶な姿を描く映画「葛城事件」(来年公開予定)に主演した。メガホンをとった赤堀雅秋監督(44)の熱烈なラブコールに応えて異色作に挑戦した。私生活のイメージと正反対の役柄をどのように演じきったのか注目される。

 三浦が演じた主人公は、疲れ果てた容姿が示すように、絶望と葛藤を抱えた男だ。2児の父として家族のためにがむしゃらに働いてきたが、心を閉ざして粗暴になった次男が8人殺傷の無差別殺人事件の加害者となる。父は自責の念と後悔にまみれ疲れ切っていく。三浦は設定について「どんな父親でも、少し歯車が狂えばそういうことに陥る可能性がある」と感じた。私生活でも同じ2児の父親だが「自分にも当てはまる話と感じた。子供にどうやって愛情を注げば正解なのか悩むのは、親として永遠のテーマですから」。

 「葛城事件」は赤堀監督主宰の劇団「ザ・シャンプー・ハット」が13年に上演した同名作品の映画化。上演当時から同監督は、映画の場合、主演は三浦に依頼すると決めていた。三浦も「監督の気持ちがストレートに伝わってきてうれしかった」と出演を決意した。

 撮影は、猛暑が続いた今年8月に都内や関東近郊で行われた。撮影期間がわずか3週間ということもあり、リハーサル時間はほとんどない。心を病んでいく母親、社会から孤立していく長男など家族を演じる共演者も複雑な感情表現が求められる。三浦は自分も含め、監督の意図が十分伝わるように、出演者が脚本のせりふを読み合う、入念な「本読み」の実施を求めた。「演じてみてすごく難しかった。それでも声を掛けていただいた時、これをやらないと後悔すると思って引き受けたわけで、撮影現場ですごく粘る監督の気持ちに応えたかった」。

 妻役は南果歩(51)。長男は舞台にも出演していた新井浩文(36)、次男は若葉竜也(26)。三浦は「登場人物全員の個性が際立っている。この作品の大きな魅力の1つです」という。

 事件そのものではなく、加害者をめぐる家族模様が描かれる。三浦は「作品は社会派ぶってはいません。家族のチグハグさが前面に出ているので、抵抗感なく見ていただけると思います」。各企業が実施するアンケートなどで「理想の夫婦」「理想の父親」と評されてきた三浦が、理想の家庭を作ることに失敗した父親を演じるギャップも話題になりそうだ。