合成麻薬MDMAを一緒に飲み、急変した女性を救命しなかったとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた俳優押尾学被告(32)の裁判員裁判で、東京地裁(山口裕之裁判長)は17日、「致死」の罪は認めず、懲役2年6月の実刑判決を言い渡した。未決拘置期間180日は差し引かれるが、09年11月に下された懲役1年6月が加算され、実質的には懲役3年6月となる。遺棄罪にとどまった判決だったが、押尾被告は自身の主張が認められず「納得できない」と即日控訴。弁護人は近く保釈請求することを明かした。

 裁判長の判決言い渡しを聞いた押尾被告は、弁護側の席に戻ろうとして刑務官に制された。着席を許可されると、ヘナヘナとへたり込むように座り込んだ。両手をダランと下げた姿は、魂の抜けた亡霊のよう。そして4人の弁護士に声をかけた。

 押尾被告

 実刑か、執行猶予か?

 押尾被告は刑務官に促されて立ち上がると、ややおぼつかない足取りで退廷した。その後、接見した弁護士に再度「実刑なのか、執行猶予なのか?」と聞き、実刑判決であると説明を受けた。すると、不満をあらわにしたという。

 押尾被告は「納得できない。自分は法廷では、自分に不利なことも含めて供述をしたつもり。それなのに今日の判決を聞く限り、自分の法廷での供述が、まったく信用されない。このように言われてしまったことについては納得できない。控訴してほしい」などと話したという。

 判決文は薬物の持ち主、死亡推定時刻など、押尾被告の主張をほぼ全面的に信用できないと切り捨て、検察側証人の証言を認めた。「自らの欲望の充足のためには、法規範の無視もいとわないというものであり、誠に身勝手で悪質な犯行」「真摯(しんし)な反省の情は皆無」「各種隠ぺい工作に及んでおり(中略)犯行後の情状は甚だ不良」などと、厳しい断罪の言葉が並んだ。

 唯一認められたのが、救命と死亡との因果関係だった。検察側は119番通報すれば9割程度救命できたと主張したが、押尾弁護団は薬物中毒の専門医から(1)MDMAには解毒剤がなく、臓器に取り込まれやすい(2)心停止前に救急搬送しても救命可能性は3~4割という証言を引き出し、保護責任者遺棄罪にとどめた。

 押尾弁護団は致死を回避できたことは評価したが、押尾被告が田中さんを体調の異変から30分以上も放置したなどとする、裁判所の事実認定に疑問を投げかけ、この日午後5時に東京高裁に控訴した。押尾被告も「何で心臓マッサージが(その時間だ)」と不満を漏らしたという。木谷嘉靖弁護士は「最終的に遺棄も不成立というのが中心テーマ」と力を込めた。

 さらに弁護団は、週明けに保釈申請を出すことを明かした。致死が取れ、裁判所が保釈を認める可能性も以前よりは高くなるとみている。野島慎一郎弁護士は「これまで請求が7、8回却下されたが、これで認められやすくなる。(東京拘置所に拘置されている)押尾さんも『早く自由になりたい。保釈を認めてほしい』と言い続けている」と話した。

 とはいえ、判決後には、法廷から出る傍聴者から「2年半じゃ短い」という声がいくつも漏れた。人が1人亡くなったという現実に対し、2年6月という量刑が相当だったのか…という一般的な疑問は残るだろう。真実を知っているのは押尾被告ただ1人という、密室で起こった事件に、終息の日はまだ見えない。

 [2010年9月18日7時54分

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