俳優平幹二朗(78)がギリシャ悲劇の代表作「王女メディア」を卒業することが1月31日、分かった。平は78年に蜷川幸雄演出で男優として王女メディア役に挑み、83年にアテネの野外舞台に立って大絶賛を受けた。13年ぶり再演で1月から全国公演中の平は「メディア役は自分の転換期になった役で、65歳で演じた後も心に引っ掛かっていた。自分の年齢も考えて、最後にしようと決めた」と明かした。

 「王女メディア」はギリシャ悲劇の代表的作家エウリピデスの作品。夫の裏切りに激怒した王女メディアがわが子を自分の手で殺して報復する悲劇で、平は78年に蜷川幸雄演出で王女メディアに初めて挑んだ。

 「当時の私は芝居が普通にできるようになったけど、当たり前に誰でもやれる演技になっていると反省していた時期で、壁にぶつかっていた。男優の私が性の違う役をやることで、自分が大きく変わった。表現することが楽しくなり、大胆にどんなことをやってもOKという気持ちになれた。転換期になった作品です」

 83年にアテネの野外劇場で公演を行い、ギリシャ以外の国の人間がギリシャ悲劇を演じて初めて絶賛を浴びた。その後も再演を繰り返し、65歳でも演じた。57年の俳優生活で、王女メディアは「近松心中物語」の忠兵衛、「タンゴ冬の終わりに」の清村と並ぶ、心の中にすみ続ける役だった。

 「いつも居座って、せりふが口から漏れ出ることもあった。でも、忠兵衛は68歳で別れを告げ、清村は若い俳優が同じ演出で演じた時に心の中から断ち切った。ただ、メディアだけは、ほかの女優が演じても心に引っ掛かっていた」

 しかし、78歳で卒業を決意した。

 「この役はすごいエネルギーがいる。自分の年齢を考えて、最後にしようと決めた。ただ、今回は野外でも演じたメディアとは違い、劇場という空間で細やかな心理的なところを見つめ直そうと思っています」

 14日に始まった全国公演は101ステージの長丁場。

 「せりふは覚えていて自然と出てきた。痛めて正座できなかった左足がメディアをやる時は痛みを感じない。ただ、叫びっ放しなので声を痛め、医者に『年相応のやり方をしてください』と言われた」

 東京公演は世田谷パブリックシアター(4月11~15日)で、最後は6月30日の長崎市。「この年齢で101回は無謀と思うけれど、最後は晴れやかにメディアにさよならを言いたい」。【林尚之】