「踊る大捜査線」シリーズなどで知られる俳優北村総一朗(77)が、前立腺がん治療のため、10月上演の舞台「本当のことを言ってください。」を降板することが20日、分かった。所属する劇団昴が発表した。8月に前立腺ポリープ手術を受けて、がんが判明。14年ぶりとなる舞台出演とあって出演を強く希望したが、主治医から早期の前立腺全摘出手術が必要と説得され、降板を決意した。

 北村は8月、体調不良を感じ、都内の病院で検査を受けた。前立腺に異常があることが分かり、同月中旬に、前立腺ポリープ内視鏡手術を受けた。その際、組織の一部を病理検査した結果が9月18日、北村に知らされた。診断は「前立腺がん」だった。主治医からは早期の前立腺全摘出を行う必要があると伝えられた。

 北村は当初、早期の摘出手術に迷った。14年ぶりの舞台出演となる劇団昴公演「本当のことを言ってください。」(東京・赤坂レッドシアター、10月19日初日)の稽古が今月4日から始まり、北村も本番を目指して、意欲的に準備を進めていた。舞台は、食肉加工会社の内部告発をきっかけに起こる騒動を描いた作品。北村は創業者の会長という重要な役を演じる予定だった。手術を後回しにして、出演を熱望したが、主治医からは「早い時期に全摘出手術が必要で、稽古を続けるのは無理」と強く説得された。このため北村も降板という苦渋の決断をした。

 関係者によると、普段から酒もたばこもやらず、40代後半に急性肝炎で入院したことがあり、人一倍健康には気を使っていたという。関係者は「がん宣告にショックを受けているはずなのに、周囲には気丈に振る舞っていた」と話している。

 北村は、同期に樹木希林(70)小川真由美(73)橋爪功(72)らがいる文学座研究所出身。ドラマや映画では地味な脇役を演じてきたが、61歳だったフジテレビ系連続ドラマ「踊る大捜査線」への出演が転機となりブレークした。同ドラマで織田裕二(45)演じる主人公青島刑事が勤務する湾岸署の神田総一朗署長を好演。副署長、刑事課長と合わせ「スリーアミーゴス」の1人として、お茶の間でも親しまれ、バラエティーやCMなどに引っ張りだことなった。

 現在は都内の自宅で静かに過ごしており、病院側の準備が整い次第、入院して手術を受ける。関係者によると、がんを克服して来年以降に舞台に戻ってくるつもりという。今回の舞台の代役は小山武宏が務める。

 ◆北村総一朗(きたむら・そういちろう)1935年(昭10)9月25日、高知県生まれ。高知大卒業後、文学座、劇団雲を経て劇団昴に所属。84年TBS系「スクール☆ウォーズ」などのドラマや「水戸黄門」などの時代劇に出演。97年フジテレビ系「踊る大捜査線」に出演。その後の劇場版にも続けて出演。10年映画「アウトレイジ」(北野武監督)では組長役で話題に。172センチ。血液型B。

 ◆前立腺がん

 前立腺はぼうこうの下にあり、尿道を取り囲む形で存在し、男性だけにある。初期は無症状のため、気づくことはほとんどない。代表的な自覚症状は排尿障害。進行性が遅く、生存率、治癒率が高い。50歳以降に発症する場合が多く、70歳以上で最も多くなる。日本人に比べ、欧米人の発生率が高い。他のがんと比較して生存率は高いが、再発の危険性は常にある。

 ◆スリーアミーゴス

 「踊る大捜査線」に登場する警視庁湾岸署の神田総一朗署長(北村総一朗)秋山晴海副署長(斉藤暁)袴田健吾刑事課長(小野武彦)の総称。緊迫した状況でも、保身やちょっとした喜びのため、とぼけた行動をとる。キャリア官僚には腰が低いが、部下はこき使おうとする。ひょうひょうした振る舞いや、憎めないキャラクターが人気を呼んだ。名前は86年の米映画「サボテン・ブラザーズ」に登場したヒーローに由来。