東日本大震災発生を受け、昨年4月に製作延期が発表された山田洋次監督(80)の81本目の新作「東京家族」が3月1日にクランクインし、13年1月公開予定になったことを配給の松竹が3日、発表した。同時に女優市原悦子(76)がS状結腸腫瘍で入院、主演の菅原文太(78)は監督との見解の相違、室井滋(53)は、他の仕事との日程調整が付かずに降板。代わって吉行和子、橋爪功、中嶋朋子がキャスティングされたことも発表された。

 撮影延期が主役と妻、長女という主要キャスト3人の降板という異例の事態を招いた。市原は3カ月強に及ぶ撮影に備え、1月末に受けた健康診断でポリープが発見されて1日に入院。医師の初見では、順調にいけば20日にも退院できる見込みも、高齢から即時の復帰は無理と判断された。深沢宏プロデューサーは「かわいそうなくらい落ち込んでいる」と明かした。

 また、仙台市出身で被災地支援を続ける菅原は、震災についてナーバスになっており、早期の撮影を望む山田監督との間に見解の相違が生まれ、出演は白紙となった。主人公の周吉は、菅原をイメージし造船所で働いた男という設定だったが、橋爪に代わった段階で元校長先生となった。山田監督は夫婦役が代わったことについて「いいものをつくれっていうことだね」と、演技派の橋爪、吉行に期待しているという。

 その時代の日本を織り込んだ作品を作り続けてきた山田監督にも、震災は衝撃的な出来事だった。年明けに10日ほどかけて脚本を書き直し、セリフや設定に震災の要素を盛り込み、12年5月の日本を舞台とし、小津安二郎監督の名作「東京物語」をモチーフに、より複雑化した現代の親子関係を描く。「不況に重ねて大きな震災も経験し、苦悩する日本の観客が大きな共感の笑いと涙で迎えてくれるような作品にしたい」と語った。

 ◆S状結腸腫瘍

 S状結腸は大腸の一部で、肛門と直腸の上部にありS字形をしており、大便を形づくる部位。大腸の中でも直腸とともに腫瘍ができやすい部位と言われている。下痢と便秘を繰り返したり、細い便しか出ない場合、S状結腸腫瘍の疑いがある。

 ◆東京家族

 瀬戸内海の小島で暮らす平山周吉(橋爪)、とみこ(吉行)夫婦は上京し、個人病院を営む長男幸一(西村雅彦)、美容院経営の長女滋子(中嶋)、舞台美術を営む次男昌次(妻夫木聡)と久しぶりに顔を合わせた。ただのんびりした老夫婦と子どもたちとは生活のリズムが違い、家族の中に隙間が生まれる。とみこは昌次から、福島のボランティアで出会い、結婚の約束をした間宮紀子(蒼井優)を紹介される。ホッとしたときに、とみこは幸一の家で倒れる。