「1億総活躍社会」実現に向け、緊急政策をまとめるために民間人を交えた「国民会議」が設置された。財界、学術界、スポーツ界などから集まった15人のメンバーの1人が、タレント菊池桃子(47)。40代で法大大学院に通い始め、修士課程を修了。現在は、母校の戸板女子短大の客員教授として、雇用政策やキャリア教育を教える「先生」でもある。

 同会議は10月29日の初会合後、約1カ月で、緊急対策を取りまとめた。その中には、企業などの採用基準に関し、障がい者に配慮した内容に見直すよう、菊池が求めた提案が盛り込まれた。初会合では「1億総活躍」の定義が国民に理解されていないとして、「ソーシャル・インクルージョン」(社会的包摂)という名称も提案。名称が変わることはなかったが、その考えに含まれる「包摂」などの言葉も、盛り込まれた。

 菊池といえば、記者の世代では、「青春のいじわる」でデビューした、アイドル歌手というイメージが強い。同級生の男子の多くが夢中になっていたほどの、人気だった。卒業の季節になれば、「卒業」という曲を思い出すし、これからの季節なら、「雪にかいたLOVE LETTER」というヒット曲もあった。

 そんな菊池が、民間議員という立場で政府の会議に出て、一国の首相を前に、意見を述べる。大学で講座を持ち、教えていることは知っていたが、最初は少しピンと来なかった。民間議員には、財界の重鎮や大学教授、ジャーナリストもいる。そこでどう、自分の存在感を出すのだろうか。

 会合や、その後の取材で肉声を聞くうちに、それが自分の思い込みであることに気づいた。

 長女が幼少期に脳梗塞を患い、後遺症が出た際、義務教育にもかかわらず、就学環境の場を探すのに苦労した経験を持つ。「社会的に排除されているという思いがあった」と打ち明けた。この経験が、大学院で勉強を始める、きっかけにもなった。「わが家の悩みとして勉強していたのが、私たちの家族の経験が社会の役に立つかもしれないという気持ちに変わった」とも話していた。

 個人的に印象的だったことがある。日本の人口問題や少子化について取材で話した時、「(国が)放置してきた」と発言した直後に、「放置されたというのは、言い過ぎですね…段階的に取り組んではきたものの、なかなか成果が見えなかった」と言い直した。その後もやはり、「放置して…」と口にして、すぐ、「段階的に、取り組んでもうまくいかなかった」と言い直した。

 民間議員の立場として、批判的なフレーズはできるだけ避けようと、言い直したのだろう。ただ、なぜ今の立場になったのか、経緯を聞くうち、彼女はこれまで、国の制度や仕組みに関して、疑問や違和感を感じてきたのではないだろうかと思った。だからこそ、「物言う」立場にもなれる民間議員も引き受けたのだろう。物言いはどこまでも穏やかだが、胸の中には強い思いを持っている。そんな気がした。

 政府の会議に出席するのは緊張しませんか、と聞いてみたら、「緊張というのはございません」と、返された。「日ごろから、芸能活動と教育活動を両立し、今は教育者の気持ちでここにいる」「自分の中で、チャンネルを調節しながらやっている」と話していた。「私は昭和に教育を受けたが、平成の子どもたちが新たに身につける知識はまた、違う」と、発言はどこまでも「桃子先生」だった。

 1億総活躍に関する全体的な政策のとりまとめは、来春に先送りされた。自分の立場で何が提案できるか。ゆっくり考えるという。