障がいがあってもなくても関係ない。みんなで楽しさを分かち合える社会にしよう。結成以来、ずっと訴えてきた。しかし、事件に、そのすべてを否定された思いだった。「俺たち、いままで何してきたんだ。実は何も変わってなかったんじゃないか」。

 犠牲者の名前と顔は表に出ず、植松被告のネガティブで間違った主張だけが世の中にしみていく。「20年前の出発地点に戻ったどころか、もっと後戻りさせられた。無力感でいっぱいになった」。しかし、深い落胆の中で考えた。「今だからこそ、トーンダウンしないで、今まで以上に、さらに声高に、ポジティブなエネルギーで叫んでいかないと」。

 2月、1つの曲が出来た。「ワンダフル世界」。サビの繰り返しでこう訴えかけている。「しあわせになるため 生まれてきたんだ 生きていることが 大好きなのさ」。今月7日、ユーチューブにアップした動画(https://www.youtube.com/watch?v=uiMBA5g1H48)には、これまでのライブ活動で知り合った全国の300人の障がいのある1人1人が顔を名前を出し、登場している。ひとくくりの「障がい者の方々」ではない。顔も名前もある個々の命の喜びの叫びだ。

 かしわは、歌詞とコードを公表し、それぞれの人のそれぞれの「ワンダフル世界」の動画アップを呼びかけている。「幼稚園の子どもが『しあわせになるため 生まれてきたんだ』と歌ってもいいし、特養の高齢者が『生きていることが 大好きなのさ』と歌ってもいい。どんな人でもいい。ギター1本でも、動画に合わせて叫ぶだけだっていい。黙っていたら、認めたことになる。今、叫んでほしいんだ」。【清水優】

 ◆サルサガムテープ 1994年、かしわ哲が神奈川県内の障害者施設で結成。99年、NHK「みんなのうた」出演。忌野清志郎とライブを行い、「ロックン・ロールの原点」と称される。03年、ミニアルバム「サルサガムテープ」に長嶋茂雄氏が参加。04年、サルサガムテープwith忌野清志郎でシングル「ONABE」を発売。フジロックにも出演。11年NPO法人ハイテンション設立。オノ・ヨーコの前でイマジンを演奏。OBには津久井やまゆり園入所者もいる。

 ◆相模原障害者施設殺傷事件 16年7月26日未明、相模原市緑区の「津久井やまゆり園」で入所者19人が刃物で刺されて死亡、職員を含む27人が重軽傷を負う事件が発生。神奈川県警は元施設職員の植松聖被告(27)を逮捕した。横浜地検は同9月から5カ月間の鑑定留置を実施し、完全責任能力が問えると判断。今年2月に殺人や殺人未遂などの罪で起訴した。

 植松被告は12年末から非常勤、翌13年4月から常勤職員としてやまゆり園に勤務。事件の約5カ月前には衆院議長公邸に事件計画の手紙を持参するなど、障がい者の存在を否定する極めて独善的な考えを周囲に示していたことが判明した。