2020年はがん検査で画期的な1年になるかもしれない。高齢化に伴い、生涯でがんと診断される確率は男性で62%、女性で47%となったが、検査費用の高さなどもあって、受診率は上がらず、厚労省が掲げる50%という目標に届かないでいる。そんな中、6日にスタートするのが体長約1ミリの線虫の嗅覚を利用したがん検査だ。線虫が日本を変えるか。

がん検査の代表、PET(陽電子放出断層撮影)。全身のがんを1度で調べることができるが、10万円前後かかる上、腎臓、ぼうこうなど泌尿器系は正常でも反応したり、糖尿病の人や血糖値の高い人は診断が難しかった。

これに対し、線虫に尿のにおいをかがせ、がんの有無を見分ける「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」(NはNematode=線虫、NOSEは鼻)は9800円(税別)。胃がん、肺がんなど15のがんに反応することが確認され、PETが不得手の腎臓がん、ぼうこうがんにも反応する。

九州大で線虫の研究をしていた広津崇亮氏が、がん患者特有のにおいを呼気や尿でかぎ分ける探知犬のニュースを聞き、「犬ができるなら、線虫にもできるはず」と、鋭敏な嗅覚を持つシー・エレガンスという線虫を使った実験を始めたのがきっかけだ。実験を繰り返すと、シャーレの中のシー・エレガンスは性別や糖尿病などの病気の有無などに関係なく、ほぼ例外なしにがん患者の尿には近づき、健常者の尿からは遠ざかった。

1906人に対する実験で、がん患者ががんにかかっている(陽性)と反応する「感度」は84・5%、健常者を陰性と反応する「特異度」は91・8%だった。がんの部位までは特定できないが、腫瘍マーカーなどでは発見しづらく、13%しか検知されないとされるステージ0~1のがんでも80%以上反応した。

16年に「HIROTSUバイオサイエンス」を立ち上げた広津氏は「簡便で精度の高い1次スクリーニング検査です」と話す。N-NOSEでがんのリスクを判定し、CT、MRI、エコーなどの画像検査を受け、部位を特定する。特定のがんに反応する特殊線虫の研究も進めており、22年に膵臓(すいぞう)がんで実用化したいという。

線虫を機に、がん検査の敷居が低くなり、欧米に比べ30%以上低いとされる受診率がアップするか。N-NOSEは初年度、25万人の受診を目標にしている。【中嶋文明】

◆線虫 世界に1億種類以上あるとされ、人に寄生する回虫、ぎょう虫、魚介類に寄生するアニサキスも仲間。シー・エレガンスは体長約1ミリで嗅覚が発達。1滴の尿に反応する。雌雄同体、自家受精で増殖するため、遺伝子が同じで個体差がないのも特徴。

◆N-NOSEが検知するがん 胃、大腸、肺、乳、膵臓、肝臓、前立腺、子宮、食道、胆のう、胆管、腎臓、ぼうこう、卵巣、口腔(こうくう)・咽頭。