<中日1-6広島>◇29日◇ナゴヤドーム

 12球団ルーキー1番星だ。広島ドラフト2位の九里亜蓮投手(22)がプロ初登板の中日戦で6回5安打1失点で初勝利。速球は大半が140キロに満たない。多彩な変化球で目先を変える。奪三振なしも巧みな緩急でタイミングを外し、18アウトのうち内野ゴロは15。「持ち味を出せた。最後まで全然緊張しませんでした」と照れ笑いした。

 マイナーリーガーだった米国人の父と、日本人の母から生を受けた。家庭の事情で日本に住む母、米国で暮らす父の元を転々とし、小6時に帰国。祖母淳子さんと暮らした中学時代、道を踏み外しかけた。「親が近くにいない寂しさもあって…」。金髪で夜通し遊び、2年時の半年間は何度も野球練習をサボッた。「悪い道と夢とどっちが大事?」。淳子さんの説得がなければ違った道を歩んだかもしれないが、もともとは思いやりのある人間だ。

 ヤンチャだった中学時代、実は「幻の表彰」を受けている。ある日の全校集会。校長が「1人の女性から学校に感謝のお手紙が届きました」と切り出した。お年寄りが歩道橋の階段を上ろうとしたところ、自ら荷物を持ってくれた学生がいたと言う。九里だった。「当時は悪ぶっていたし、恥ずかしくて名乗り出ませんでした」。照れ屋で不器用だが、思いやりを持つ。淳子さんや母、妹ら応援団8人が三塁側内野席から見守っていた。「ずっと迷惑をかけていたんで、少しは親孝行できたかな。ボールは親に渡します」。快挙よりも、家族の笑顔がうれしかった。【佐井陽介】