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勝敗を分けた延長戦

劇的サヨナラが一転、球界史上初の珍事

新庄剛志は、満塁で本塁打を放つも一塁走者の田中幸雄と抱きついてしまい単打となる
新庄剛志は、満塁で本塁打を放つも一塁走者の田中幸雄と抱きついてしまい単打となる

 新庄が両腕を大きく広げながら、一塁ベースを駆け回った。ダイヤモンド上で跳びはねた。2004年9月20日のダイエー戦。3点差を追い付いた9回、なおも2死満塁だった。三瀬の初球143キロ直球をとらえた。左中間席へ飛び込む完璧な「サヨナラ満塁本塁打」だ。ドラマにもないような、絵に描いたような演出、となるはずだった。

 誰にもまねできないようなオチがついた。一、二塁間で一塁走者の田中幸と抱き合う。歓喜のあまり1回転。これが前方の走者の田中幸を追い越したと判断され、アウトを宣告されてしまった。本塁打は取り消されたが、新庄は一塁に到達していたため記録は単打。走者追い越しの前に三塁走者の奈良原が生還していたため、サヨナラ勝ちが成立した。走者を追い越したり、ベースを踏み忘れたりして取り消された「幻の本塁打」で満塁サヨナラはこの当時、球界史上初の珍事だった。

 試合後、自ら抱きついた田中幸に謝罪されても新庄は「いいんです。何言っているんですか。勝ったんだから」と、小さなことにはこだわらなかった。お立ち台で珍しく声を上ずらせながら「今日のヒーローは僕じゃありません。(観衆の)みんなです。ヒーローになりたい、ヒーローになりたい。それだけでした」と何度もガッツポーズを連発して絶叫した。

球界再編で揺らぐ中で見せた新庄のプロ魂

キレンジャー(新庄)を先頭にシートノックに現れた日本ハムゴレンジャー(赤が森本、緑が坪井、青が島田、桃が石本)
キレンジャー(新庄)を先頭にシートノックに現れた日本ハムゴレンジャー(赤が森本、緑が坪井、青が島田、桃が石本)

 プロ野球にとって歴史的な一日だった。近鉄とオリックスの統合、1リーグ制移行の動きによる球界再編問題で、選手会が同年9月18、19日に球界初のストライキを決行した。試合のない空白の2日間を経て再開されたのが、ダイエー戦などが行われた9月20日。札幌ドームには04年最多の4万2000人の観衆が待っていた。

 試合前には新庄ら5人が「秘密戦隊ゴレンジャー」のかぶり物をして登場。この姿でシートノックを受け、ファンを喜ばせた。「子どもたちのために」と考えた、粋なパフォーマンスだった。試合でもサヨナラ打の前には、4点を追う4回に、新垣の変化球を左中間スタンドへ追撃22号ソロ本塁打を運んだ。新庄がプロ野球の楽しさ、醍醐味(だいごみ)を再認識させるヒーローになった。【高山通史】

数年後を見据えたベテランと若手の融合

相手打者を三振に打ち取り、雄たけびを上げる大谷翔平
相手打者を三振に打ち取り、雄たけびを上げる大谷翔平

 昨季最下位に終わった屈辱を晴らすシーズンになる。栗山監督は2月の名護キャンプから稲葉、金子誠らベテランも特別扱いせず、競争原理を導入。若手、中堅も含めて横一線で競わせた。今季だけでなく、数年先も見据え、目先の勝利とチームの将来の両立という難しい戦いに挑んでいる。

 新戦力としてメジャー通算16勝右腕のメンドーサ、大型右腕のクロッタ、キューバ出身の元大リーガーで大砲候補のミランダが加入。腰椎(ようつい)ヘルニアで昨年本塁打王のアブレイユは出遅れたが、戦力は整った。

 若手の成長も著しい。3年目右腕上沢が開幕から3連勝、ドラフト2位ルーキーの浦野も勝利を挙げた。「二刀流」2年目の大谷も投打で結果出している。投打の歯車がかみ合えば、一気に優勝争いに絡める、潜在能力を秘めている。

日本ハム担当記者

高山通史(たかやま・みちふみ)
高山通史(たかやま・みちふみ)
 1975年(昭50)、新潟県生まれ。高校時代に奇跡的に甲子園で本塁打を放ったが、各スポーツ紙の見出しは「ラッキーボーイ」。低レベルを悟り、大学進学の際に野球を断念。スポーツ紙記者にあこがれ、現在に至る。日本ハムは、北海道移転元年の04年から担当して今季で11年目に突入。


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