数多くの映画やドラマで母親役を演じた女優馬渕晴子(まぶち・はるこ)さん(本名井上明子=いのうえ・はるこ)が3日午前9時51分、肺がんのため都内の病院で亡くなった。75歳だった。近親者のみで密葬を行う。テレビ草創期に「NHK3人娘」の1人として活躍。連続テレビ小説「雲のじゅうたん」などに出演して演技派の脇役として多くの作品を支えた。5年前に肺がんとなり、その後、入退院を繰り返していた。

 馬渕さんは5年前、肺がんとなったが、放射線治療で回復して現場復帰していた。ところが2年前、肺に新たながんが見つかり、放射線治療を続けながら入退院を繰り返した。その間も仕事を続け、昨年はTBS系ドラマ「深夜食堂」に出演。同9月からも遺作となった映画「ばななとグローブとジンベエザメ」(来年2月公開)の撮影に参加していた。

 今年9月16日に発熱して入院したが、台本を病室に持ち込んだ。乙羽信子さんと夫新藤兼人監督を主人公にしたドキュメンタリードラマで、杉村春子役で出演予定だった。収録は25日から始まる予定だった。主演の大谷直子と共演したことのある馬渕さんは「久しぶりに直子に会えるね」と楽しみにしていたという。しかし体調が回復せず、収録直前に降板を決めた。関係者から「撮影隊はみんな待っているからね」と言われると、病床でうなずいていたという。

 親友の冨士真奈美(74)が先週、見舞いに訪れると、うれしそうな表情を浮かべていたという。関係者が「最後のお別れに」と冨士に声を掛けたのだという。3日朝に容体が急変し、元俳優の次男井上雄介さん(50)ら2人の息子とその家族、友人らにみとられて、静かに息を引き取った。

 57年にNHK専属となり、冨士、小林千登勢さんとともにドラマ「輪唱」をきっかけに「NHK3人娘」と呼ばれて人気者になった。60年に俳優の故井上孝雄氏と結婚して芸能界を離れた。復帰後は連続テレビ小説「雲のじゅうたん」「甘辛しゃん」や映画「祭りの準備」(黒木和雄監督)などに出演。印象的な母親役を数多く演じた。

 40歳の時に「40年生きてきたことが、どう現れたかを見たかっただけ」として月刊誌にヌード写真を掲載して話題を呼んだ。バブル期の86年に都内の自宅マンションを不動産業者が買い占めようとした動きに対し、住民代表として慰謝料を求める訴訟を起こした。脱落者が続出し、最後の1人になっても闘い続けるなど、正義感の強い女性でもあった。

 ◆馬渕晴子(まぶち・はるこ)1936年(昭11)11月2日、東京都生まれ。高校生の時にスカウトされ、芸能界入り。54年映画「女人の館」でデビュー。59年ドラマ「あの波の果てまで」でヒロインを演じて注目される。結婚で一時芸能界を離れたが長男を出産後、61年ドラマ「記念樹」で復帰。映像以外にも舞台の演出を手掛けた。94年に死去した夫井上孝雄さんとの間に2男。