日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(62)が「ハリル流」全開でチーム改革をスタートさせた。23日、大分県内で始まった国際親善試合のチュニジア戦(27日・大銀ド)に向けた合宿で、就任後初の陣頭指揮。約3000人のファンが詰め掛ける中、ランニングで選手の先頭に立って走ったり、練習をわずか26分で終えたりと、異例ずくめのメニューで驚かせた。

 走る背中が、何より雄弁なメッセージだった。合宿初日。選手の輪の中に、手をたたきながら入っていったハリルホジッチ監督は、そのまま先に立ってランニングを引っ張った。「えっ? 走るの?」と驚く選手たちを尻目に、1周約300メートルのピッチの周囲を約13分間先頭に立って走った。

 初日の練習は、この26分間のランニングだけで終わった。異例の短さだが、選手たちには大きなインパクトを残した。DF槙野は言った。「これから同じ方向を向いて、一緒に戦っていく上で、とても意味があることだった」。

 「意味」は皆が感じていた。最初は数人の選手が、緊張感なくコーナーフラッグの内側を走る場面もあったが、すぐに全員がしっかりフラッグの外を回るようになった。62歳の指揮官は、さすがに徐々に遅れだしたが、集団の統率は最後までとれていた。

 直接的なメッセージも投げかけた。練習開始直前。ミーティングルームに選手を集め、15分間かけ所信表明した。チームの現状について私見を述べた上で「君たちはもっとうまくなれる。もっと強くなれる。でも、やらなければならないことはたくさんある」と熱弁。細部にわたるチーム改善プランの一端も示した。

 過去のチームでも、監督就任直後にメッセージを投げかけてきた。11年から率いたアルジェリア代表では、規律を重視する姿勢を鮮明に打ち出した。集合時間の15分前に現れ「ただ集合時間に集まればいいものではない」と一喝。期待する選手を呼び出し「オレは期待して呼んだ。がっかりさせたら承知しないぞ。どうする?」と“圧迫面接”もした。

 規律面での問題が少ない日本では、まったく違うやり方をみせた。「初めて会う選手もいる。練習の中でも、コミュニケーションを取っていこう」と話し、練習を締めくくった。合宿中は個別やグループでの面談も重ねる予定で「話したいことがあったら、いつでも私のところに来てほしい」と門戸も開く。

 代表に限らず、監督がランニングの先頭を走るのは、そうあることではない。その光景は指揮官が「日本はもっと走るべき。スピードが必要」と強調してきたことも想起させた。31人を集めたこと。バックアップメンバーも公表したこと。ハリル流は何かが変わる予感を選手の心に残している。MF長谷部は「多くの選手にとってチャンスも広がる。まだ初日ですけど、僕は楽しみです」とうなずいた。白い魔術師が「マジック」の一端で、しっかり選手たちの心をつかんだ。【塩畑大輔】

<ハリルホジッチ監督 初日ドキュメント>

 ◆午後5時33分 ピッチに登場。約30秒間選手に声を掛けた後、選手の先頭に立ってランニング開始。

 ◆同47分 遅いペースで6周走ると、間延びした後方の選手にもっと詰めて走るよう指示。直後に1人集団から脱落。選手はペースを上げもう6周ランニング。

 ◆同51分 観客席からの声援に手を振って応える。

 ◆同59分 ゴールライン沿い約50メートルをダッシュし、ラストスパート。練習終了。

 ◆同6時1分 DF太田に話しかけ会場から引き揚げる。