【バンクーバー(カナダ)2日(日本時間3日)=鎌田直秀】なでしこジャパンDF有吉佐織(27=日テレ)が、大会最優秀選手に与えられる「ゴールデンボール賞」の最終候補8人に、MF宮間あやとともに選出された。今大会は右サイドバックの定位置を奪い、攻守両面にわたる活躍でブレーク。前回大会でMF澤穂希が獲得した栄誉ある“ニンジン”がぶら下がり、5日(同6日午前8時開始)の米国との決勝戦へ、新たな発奮材料が加わった。また、最優秀GK候補3人には海堀あゆみが入った。

 準決勝イングランド戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたDF有吉に、さらなる栄誉獲得のチャンスが出てきた。国際サッカー連盟(FIFA)選出の大会最優秀選手に授与される「ゴールデンボール賞」の最終候補8人に、主将のMF宮間とともにノミネートされた。後半ロスタイムのオウンゴールで2-1と勝利した激戦から一夜明け、エドモントンから空路で米国との決戦の地バンクーバー入り。「おはようございます」と笑顔で、待ち構えた報道陣にあいさつした。

 有吉は右サイドバックで今大会から先発に抜てきされた。1次リーグ初戦スイス戦でW杯デビューを果たすと、決勝トーナメント1回戦オランダ戦では前半10分に貴重な先制点。相手ディフェンダーのクリアミスに鋭く反応し、右足で代表初得点を決め貢献した。イングランド戦でも宮間が決めたPKを奪ったのが有吉。MF阪口の縦パスにDF陣の裏に抜け出し、背後からのファウルを誘発した。

 愛称は「キング」。鹿児島・神村学園高時代から王の称号を得ている。「最初は女子なのに何で? って思ったんですけれど、今では気に入っています」。高校入学の直後「コートネーム」命名が慣例だったため、先輩から「私は王って漢字が好きだから」と一方的に名付けられた。だが、本家「キング」の元日本代表FWカズのような、またぎフェイントなどの技術を身につける上で、プレーでも「カズさんみたい」と言われ、気に入った。

 出場できる喜びに満ちた今大会。故郷の佐賀市に住む両親への恩返しの思いも強い。1次リーグを観戦した父敏和さん(61)は「本当にドキドキです」。母和枝さん(59)も「ロンドンではサポートメンバーで悔しい思いもあったので、胸がいっぱい」と見守る。中学2年から強豪神村学園中等部にサッカー留学。「親元を離れることを許してくれた両親には感謝しています」。優勝以外の土産が、もう1つ増やせるチャンスだ。

 神村学園中等部の吉永輝彦監督から送られた4つの言葉もある。(1)好きなら頑張る(2)最後まで諦めない(3)1対1で負けない(4)へたくそでもいいから食らいつけ。「1戦1戦、チームとしても個人としても成長できていると思う。厳しい戦いになるが、日本らしくパスをつなぎながら勝ちたい」。27歳、遅咲きのシンデレラが、米国を相手に攻守両面で食らいついてみせる。

 ◆有吉佐織(ありよし・さおり)1987年(昭62)11月1日、佐賀県生まれ。日体大在学中に特別指定選手で東京電力へ。卒業後の10年から日テレ加入。12年2月のアルガルベ杯で代表デビュー。国際Aマッチ40試合1得点。159センチ、51キロ。

 ◆ゴールデンボール賞 W杯で大会最優秀選手に与えられる賞。最終候補者8人の中から「シルバーボール賞」(優秀選手賞)、「ブロンズボール賞」(敢闘選手賞)も選出される。また、最優秀GKの「ゴールデングラブ賞」にはGK海堀ら3人が候補に。受賞者は、5日の決勝戦後にFIFAのテクニカルスタディーグループ(TSG)から発表される。11年女子W杯ドイツ大会では、大会5得点で「ゴールデンブーツ賞」(得点女王)にも輝いたMF澤がダブル受賞した。