プレーバック日刊スポーツ! 過去の9月20日付紙面を振り返ります。1997年の1面(東京版)はGK川口能活の活躍で日本代表がUAEと0-0の引き分けに持ち込みW杯前進と報じています。

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<W杯アジア最終予選:UAE0-0日本>◇19日◇アブダビ・ザイードスポーツシティ

 GK川口能活(22=横浜M)が日本のゴールを守り抜いた。W杯アジア最終予選の第2戦、アウエーのUAE戦で、決定的なピンチに見舞われながら、鋭い飛び出しと的確な判断で好セーブを連発。0-0の引き分けに持ち込んだ。日本は1勝1分けで勝ち点4。次戦は28日、韓国をホーム東京・国立に迎える。日本の守護神はユース、五輪代表時に味わった屈辱を晴らす時を迎える。

 全身バネのように川口の体が跳ね上がった。右足の先でボールをはじき飛ばしていた。日本のゴールは守られた。前半31分、UAEサポーターで埋め尽くされたスタンドに「能活コール」が勇ましくこだました。

昨年のアトランタ五輪ブラジル戦をほうふつさせるような川口のスーパーセーブだった。守備網を簡単に打ち破られ、FWズハイルにペナルティーエリアに侵入されると、迷わず足元に飛び込んだ。わずかに球がこぼれたがフォローがいない。ズハイルがフリーでボールに追いつき、決定的ピンチの場面だった。

 1分後にもFWジャシムの弾丸シュートを好キャッチ。味方にゲキを飛ばし、素早いフィードでチャンスをつくることも忘れなかった。「勝ちたかったけど、失点しなかったのはよかった。自分にとっても、チームにとっても韓国戦につながる試合です」。試合が終わってもなかなか緊張から解き放たれず、川口の言葉は少し震えた。汗は止まることなくあふれ出ていた。

 試合前、加茂監督に「0点に抑えろ」と直接指示された。失点はGKひとりのものではないが、覚悟を決めるしかなかった。「相手が立ち上がりから攻めてくるのは分かっていた。この暑さとムードの中で難しいことはあったけど」。最後は90分間集中力が続いたことを完封の要因とした。

 集中力。川口が常に口にする言葉だ。今回の最終予選についても「たった2カ月間ですよ。人生の中で考えたらほんの短い間。そこで集中できなくてどうするんですか」と話していた。「そのたった2カ月にやり残したことがあって、一生後悔するのはイヤですから」。自分の体をいじめるように鍛え、肉は脂身を丁寧に取り除きながら食べるようなストイックな生活はこの一言に支えられている。

 最終予選ではグローブのベルト部に日の丸を縫い込んでいる。契約先のアシックスから「名前でも文字でも好きなものを縫い込んであげる」と提案されたところ、「日の丸ひとつでいい」と答えた。7日のウズベキスタン戦前もスタンドで打ち振られる日の丸に「ジーンときた」という。アウエーで、気温38度の猛暑の中で、日の丸を背負ったプライドに支えられた。

 次は宿敵・韓国との対戦になる。ユース時代にはワールドユースへの道を断たれ、五輪代表ではアジア予選決勝で敗れた相手。いずれもゴールを決められたFW崔竜洙との再対決になる。今度こそ必ず勝ってケリをつける。この日の完封劇は自分の成長ぶりを見せつける挑戦状だった。

※記録と表記は当時のもの