<W杯アジア3次予選:日本3-0オマーン>◇2組◇2日◇日産スタジアム

 恩師逝去の報に、日本代表岡田武史監督(51)が奮い立った。W杯アジア3次予選突破へ、負ければ自身の進退問題も浮上しかねない大一番で、3-0と快勝。3次予選突破へ大きな勝ち点3を奪った。試合前、学生時代から支えてもらった長沼健氏(日本サッカー協会最高顧問)の訃報(ふほう)が入り、悲しみをこらえながら指揮を執った。サッカーをあきらめかけていた学生時代、そして97年に代表監督へと導いた恩師へ、手向けの白星をつかんだ。

 負ければ進退問題になりかねないこの日、岡田監督は勝ち抜く力を授かったようだった。「長沼さんは腹の据わった方でした。今日はどうしても勝ちたかった。喜んでくれていると思います」。勝利の後、恩師への思いがあふれ出した。「健さん(長沼氏)との一番の思い出は…、やっぱり、カザフスタンで監督になるときに…、あの方が、自分が盾になるように、前面に出て処理されたことが印象に残っております」と絞り出すように話した。目はうるんでいた。

 97年10月、加茂前監督が更迭され、ヘッドコーチから新監督に押し上げられた。記者会見で隣に座り、支えてくれたのも長沼氏だった。サッカーをやめようと思っていた19歳のときに諭され、早大サッカー部に入るきっかけになったのも長沼氏の言葉だった。最後に会ったのは代表監督就任前の昨年10月だったという。

 午後5時30分すぎ、悲報が届いた。絶句した。しかし、試合は待ってはくれない。泣きたいつらさを押し殺し、バスに乗り込んだ。試合中は、左腕に喪章をつけてベンチに座ったまま。これまでせわしなくベンチの前で指示を出してきた岡田監督が、この日は無数のフラッシュを浴びながら、「腹の据わった」態度を通した。

 前半10分に中沢のヘディングで先制しても、動かない。同22分の2点目、大久保のシュートがサイドネットへと吸い込まれるのを見て、やっとガッツポーズが出た。後半4分に中村俊のダメ押し弾が決まった後も表情が緩んだのは、一瞬だけだった。

 この日の勝利で、日本は2組2位を守り、3次予選突破への道は開けた。試合後、岡田監督は「僕は高校生の時から長沼さんの本を読んで勉強させていただいた」と明かした。少年のときから「恩師」だった。その知識、自分をサッカー界へ導いてくれた情熱が、今の岡田監督を支えている。この日の白星だけでなく、南アフリカ行きを恩師に報告できる日を信じている。