<女子W杯:日本2-1ニュージーランド>◇1次リーグB組◇27日◇ドイツ・ボーフム

 史上最多タイとなる5度目のW杯出場となったMF沢穂希(32=INAC)が、主将として落ち着いた試合運びをリード。なでしこジャパンはニュージーランドを破った。前半6分にFW永里優季(23=ポツダム)が左足で先制。同12分に相手FWの高さに同点弾を許したが、後半23分に「沢の後継者」MF宮間あや(26=岡山湯郷)がFKで決勝ファインゴールを奪った。1次リーグ第2戦メキシコ戦(レーバークーゼン)は7月1日に行われる。

 15歳から走り続けた32歳のキャプテンの存在が、なでしこジャパンを引っ張った。国際Aマッチ168戦目。ドイツで活躍するFW永里、安藤や、昨季なでしこリーグMVPの大野らが前線で自由に走り回れたのも、ボランチの位置から沢の攻守の支えがあったからこそ。

 前半6分、大野の浮き球スルーパスに、永里が抜け出す。飛び出したGKビンドンよりわずかに早く左足を伸ばし、先制ゴールを決めた。

 12分に高さで同点ゴールを奪われると、その後も、ニュージーランドは一貫してロングボールを放り込んでくる。沢はDFラインの近くでセカンドボールのケアに終始。懸命に体をなげうって対応するDF熊谷、岩清水らを声で鼓舞し、全体の流れを把握しながら、DFに重点をおき、チームのバランスを保ち続けた。

 メキシコ五輪銅メダルを獲得した釜本邦茂氏と並び日本歴代最高の75得点を誇る。当然、得点への期待も集まるが、沢のサッカー観は進歩している。「最近は周りを生かすサッカーが面白くなってきた。前にはタレントもそろっていますし…。年をとるとバランスも必要かな」。

 沢の思いは、周りに波及していく。後半23分、MF宮間が約16メートルの位置から鮮やかな決勝ゴールを決めた。佐々木監督が「沢の次の主将」と信頼をおき、初めてアジアを制覇した昨年11月の広州アジア大会では、沢に代わってキャプテンマークを巻いた後継者。

 精神的にもプレッシャーがかかる場面で、6枚の壁をキレイに越え、正確に枠に飛んだFK弾は、沢の後ろ姿を見て学んだ精神力から生まれた。「みんなで取ったFKだったので大事に蹴りました。入って良かったです」。

 沢は「夢は見るものでなくかなえるもの」と公言してきた。FIFAランク過去最高の4位で迎える大会で金メダルへの期待もかけられるが「まずはメダル。北京五輪の4位を超えることが大切。サッカー人生の集大成と思って取りにいく」と、決して大口はたたくことはない。

 試合後は「暑さもあったので、よく最後まで走り切れたと思う。初戦は難しいということは常に感じているし、それでも勝ち点3が取れたのは、今後チームがいい感じに向くと思う」と、言葉を選びながら冷静に振り返った。

 集中力を高めるため国際大会では友人だけでなく、家族とも全く連絡を取り合わないのが沢流だ。母満壽子(まいこ)さんは「日本にいると私も不安と期待が大きくなるけれど、良い結果がでることが家族として一番うれしいから耐えています」。

 集大成のこの大会で、自分の得点ではなく、周りが得点して競り勝ったことが、沢にとって何よりのスタートになった。【鈴木智貴通信員】