<アルガルベ杯:日本3-4ドイツ>◇アルガルベ・スタジアム

 これぞエースだ!

 ドイツに惜敗し、準優勝に終わったなでしこジャパンだったが、常にリードを許す展開にも最後まであきらめなかった。前半35分。すでに2点のリードを許し、バラバラになりかけたチームを奮い立たせたのはMF川澄奈穂美(26=INAC神戸)の意地の1発だった。1度もリードすることはできなかったが世界を舞台に確実に成長した姿を見せた。ロンドン五輪へ、エースが進化を続ける。

 苦しい展開でも何とか打開する。これがエースの誇りだ。前半立て続けに点を許した。誰もが「今日はダメか…」と2点ビハインドで迎えた前半35分。チャンスは突然やってきた。相手のパスミスを奪ったFW安藤からの長い縦パス。「アンチ(安藤)が得意なコースに出してくれた」と、左サイドで受けた川澄は、力強くゴール前に切り込むと巧みなステップでDFをかわし、ゴール右隅に鋭いシュートを突き刺した。「前半1点返せば楽になると思っていた」と振り返る通り、一瞬のチャンスをゴールに結びつけた勝負強さになでしこジャパンが勇気を取り戻した。

 川澄にはこの日、大きな発奮材料があった。右サイドバックで先発したDF有吉佐織(24=日テレ)の存在だ。日体大の2つ下の後輩との初めての同時先発。彼女には「後輩」という以上に特別な思いがあった。大学4年時、川澄は右膝前十字靱帯(じんたい)を断裂。川澄は「サッカー人生の転機になった」というほど苦しいリハビリを乗り越えた。そのちょうど2年後。有吉もまた左足前十字靱帯を断裂した。その時、有吉のもとには1つの大きな段ボールが送られてきた。中には川澄自身が使っていたサポーターなどリハビリ用品と1冊の詩集。川澄がリハビリ中に読み、共感した詩を手書きでつづってあった。

 有吉は「今でもその本は部屋でたまに読み返しています。自分にも他人にも厳しい先輩だったけど、ナホさんがいたから私もがんばれた。今日は同じピッチに立ててうれしかった」。この日のゴールの喜びは格別だった。同じリハビリを乗り越え、チームの窮地を救う姿を後輩に見せたかった。

 昨夏のW杯では準々決勝で対戦したドイツ戦に出場すらできなかった。「出られなくて悔しかったが、その気持ちは出せた」と川澄。直後の準決勝スウェーデン戦で2ゴールを決め、一気にブレークした。この日の1発にはさまざまな思いがこもっていた。「苦しい場面でも自分が余裕を持ってできたのは成長できたと思う」。試合は敗れたが得るものも多かった。さあ、夢の五輪金メダルへ。ラストスパートが始まる。