<W杯アジア最終予選:日本2-1オマーン>◇B組◇14日◇マスカット・スルタン・カブース・スタジアム

 レーザー光線の次はフラッシュだった。日本代表がW杯アジア最終予選オマーン戦を敵地で戦い勝利を収めた。前半20分、FW清武弘嗣(23=ニュルンベルク)がこぼれ球を押し込み先制。しかし、スタンドのオマーンサポーターから、携帯電話やタブレット端末を使ってフラッシュをピッチに浴びせられると、後半32分に同点。それでも同44分、FW岡崎慎司(26=シュツットガルト)が決勝点を決め勝利。チームは5戦負けなしで2014年W杯ブラジル大会出場に王手をかけた。

 無数のライトが、不自然なほど消えていった。終了目前の後半44分のことだ。DF酒井高の左クロスを、ニアサイドでMF遠藤が右アウトサイドでかすめた。かすかにコースの変わったボールに、飛び込んだのが岡崎。体ごと押し込むように決める、「らしい」泥くさい決勝点。スタンドのオマーンサポーターが、席を立ち会場を去った。「ヤット(遠藤)さんが絶対触ると思った」。予想どおりのゴールを喜んだ。

 スタンドから新たな妨害策が、行われていた。ライトが日本代表が戦うピッチに向かって放たれていた。前半、照りつけた太陽が沈むと同時に、スタンドから次から次へと…。呼応するかのように、全方位から浴びせられた。オマーンサポーターが陣取るゴール裏スタンドでは、携帯電話やタブレット端末を使ってライトがたかれていた。写真を撮るわけでも、動画を撮影しているわけでもない。ただ点灯する光を向け、異様な雰囲気を演出していた。レーザー光線に代わる、中東ならではの妨害策だ。ただ岡崎には無用だった。「え?

 全然気づかなかった」。ただ、4年前にアウェーで戦った際、レーザーを浴びた遠藤は気づいていた。それでも「選手たちは気になっていなかった。そんなに気になるようなことでもなかったですし」。

 薄暗くなった空が、余計に光を際だたせる。日本が追い詰められたのも、その直後だ。後半32分、直接FKを低めに決められ同点。歓喜のスタンドでライトは踊り、ボルテージは急上昇。追い上げムードを演出された。会場は、予想どおりオマーンサポーターで埋め尽くされた。オマーンカラーである赤いユニホームと白装束のコントラストは、日本ではない光景だ。国とサッカー協会を挙げて観客動員に奮闘。「中東でのアウェー戦は、簡単なものではない」。日本選手たちが口をそろえた言葉が、現実になった。

 日本のマイボールでは、大ブーイング。耳をつんざくような口笛を浴びた。オマーンがボールを持てば、必要以上に大声援。ピッチの選手が、うろたえるには十分なアウェー感。異様なまでに盛り上がっていたスタンドが、岡崎のゴールを機に、一気に消沈。スピーカーを使った応援はやみ、声も届かない。「中東の厳しいところでゴールを決められた」と、決勝弾を決めた殊勲者は格別の喜びを味わった。

 先月の欧州遠征では左足指の骨折で不参加。「試合にメッチャ飢えてますから」と臨んだ一戦で、日本をW杯出場王手に導くゴールを決めた。「今まではああいうところに、行き切れてなかった。最後まで攻めきった結果」と胸を張った。中東の洗礼をものともせず、5大会連続出場に大きく前進した。【栗田成芳】

 ◆日本代表のレーザー光線による被害

 08年9月6日の南アフリカW杯アジア最終予選バーレーン戦(マナマ)で、スタンドからレーザー光線がMF中村俊、遠藤らに浴びせられた。遠藤は「目に入ったときはやりづらかった」と振り返っている。この件に関して日本協会の犬飼会長(当時)は「日本でやるときに、まねをする人がでないようにしなければ」と再発防止対策も口にした。同10日には日本協会が国際サッカー連盟(FIFA)とアジアサッカー連盟(AFC)に抗議文を送付。再発の恐れがあった10月15日のウズベキスタン戦(埼スタ)での被害はなかった。