90分近い我慢のご褒美は、耳から入ってきた。後半44分。浦和は右サイドからのFKのチャンスを得た。ゴール前に上がった槙野は、相手選手が「ゾーンで守るぞ」と言い合っているのを小耳に挟んだ。「ゾーン守備なら、相手の選手と選手の間に入っていけば、チャンスになると思った」。

 MF柏木のFKは、ニアサイドのFWズラタンの頭にピタリ。首位を守る1-1の同点に持ち込んだ。槙野は「いいヘッドでした。でもズラタンが決めなくても、自分が決めましたよ」と言った。ゾーン守備の隙間を突き、浦和の選手はズラタンの後方で2、3人がフリーになっていた。

 大人の試合運びが、勝ち点1につながった。ペトロビッチ監督(57)就任以来、4年近く勝利がない川崎Fとの敵地アウェー戦。浦和はいつもよりやや守備ラインを下げ、相手の攻撃を呼び込んでからプレスをかけた。1点を先制され、前からプレスをかけて反撃を狙いたい状況になってもほとんどスタンスは変えなかった。

 先制された後、前がかりになり、失点を重ねる悪癖は消えた。勝ち点1以上に、悲願のリーグ優勝に向けて、試合運びの点で強い手応えになった。FWレナト、大久保に自由を許さない、手厳しい守備も光った。

 ペトロビッチ監督は「球際に厳しく、とは就任以来3年以上、ずっと言い続けてきたことです」と選手の成熟をたたえた。「球際を厳しく」とはハリルホジッチ監督が日本代表の選手たちに求めている改善点だが、来日以来10年近く日本サッカーの向上に尽力してきた指揮官は、すでに選手たちにそのエッセンスを注入してきている。【塩畑大輔】