<J1:鹿島1-0磐田>◇第33節◇29日◇カシマ

 鹿島がDF岩政大樹(26)の劇的なロスタイム弾で優勝にさらに近づいた。磐田戦は0-0のまま終了寸前となったが、土壇場で岩政がFKから会心のヘッドを決めて大きな1勝をつかんだ。12月6日の最終節札幌戦に勝てば、無条件で2連覇が決まる。混戦の08年度リーグVは、30日に札幌と戦う名古屋を含めた3チームに絞られた。

 スタジアム中に充満していた期待を、岩政がかなえた。後半ロスタイムも残り数十秒。ゴール左でのFKは、まさにラストプレーだった。MF増田が思いを託したキックをニアに突く。スペースを見つけた岩政が、187センチの肉体をボールにぶつけるようにヘッドをたたき込んだ。ドラマのような決勝弾。新井場に引きずり倒されたヒーローは、次々に折り重なる仲間の中で吠(ほ)え続けた。

 「僕のプロ初ゴールも同じ状況だったから、何かあるかも知れないと思った」。数週間前に、ホーム最終戦のこの日の劇的な勝利を予告。「野沢の活躍で勝つと思った。一番可能性が低いけど、自分のゴールで勝つこともあるかなと思った」。後半ロスタイムにヘッドでプロ初得点となる決勝点を挙げた、4年前のホーム磐田戦を再現した。

 久々に的中した「予言」だった。昨年は苦境だった夏場にリーグ優勝を言い当て、初の代表選出、天皇杯優勝も予言した。だが今年は「1月か2月に代表デビュー」の予言は外れ、左足首痛に悩まされた。昨年6得点でDF得点王だった男は1得点止まり。「この1年はもどかしかった。得点が少ないことを周りから言われることもあった」と責任を痛感していた。

 天性の素質がないことは自覚している。だがあきらめることは性分に合わない。一般入試で入った東学大では岩政より才能がある選手がほとんどだった。だが母英子さんには「僕よりうまい選手しかいない。でもそういう選手が部をやめる。自分がここまで続けてこられたのは、誘惑に負けない気持ちがあるから」と決意を明かしたことがある。強い気持ちが宿っているからこそ、今でも逆境を乗り越えることができる。

 「内容はよくない。でも劇的な勝利の方が乗っていける」。最終戦のアウェー札幌戦での連覇達成を予言するかのように、決勝弾の直前からスタンド後方の北の空には鮮やかな虹が架かっていた。【広重竜太郎】