「今すぐ代表に呼ばれても、通用する自信がある」-。ベルギー2部ウーペンのFW指宿洋史(21)が、現地で本紙のインタビューに応じた。Jリーグを経験せずに17歳でスペインに渡り、今季は新天地で10戦7発と結果を残している。身長197センチの正真正銘のセンターフォワード。FWの駒不足に悩むザックジャパンの新星候補を直撃した。

 ドイツとの国境に近いウーペンは、人口約1万8000人の小さな街だ。駅にホームはない。線路の横に敷かれた砂利道を通って、駅舎に入る。そんなベルギーの田舎町を沸かせている日本人がいる。街の中心にある練習場。円陣を組むと、誰よりも背が高い。身長197センチのFW指宿洋史。17歳で欧州に渡り、今季はベルギーでも注目される存在になった。川のせせらぎが響くレストランで、インタビューは始まった。

 指宿

 こっち(欧州)に来てから、ずっとスペインにいたので、スペイン語を聞くと落ち着くんです。だから、ここ(ベルギー)で英語やフランス語を聞くと、すごい焦りますね。大きな夢を見たい-。そう思わないと、こっちに来ていなかったでしょうね。海外でやってみたいと、中3くらいから思っていたんです。いつかやりたい-。そう思っていたら、それが(高3で)目の前に来た。テスト生としてスペインに来て、たまたま受かったんです。

 初めて欧州に来た日を、覚えている。高3の冬。両親は、契約書にサインをすると、たった3日で日本に戻った。以降、寮での1人暮らし。練習が終わると、近くのレストランで食事を済ませた。毎日が無我夢中。ホームシックになる時間もなかった。

 指宿

 親との約束もありましたし、自分の中でもプロ契約じゃなければ来ないと決めていたんです。トライして、自分の中で『できる』という感触があった。日本食は恋しくなりますよ。今も自炊はしますけど、パスタをゆでるくらいです。炊飯器がないから、米を炊くこともできない。ほら、鍋で米を炊くと底が焦げるでしょ。あれが嫌なんで、自炊はパスタです(笑い)。

 4クラブを渡り歩いたスペインでの3年半を経て、今年8月からベルギー2部ウーペンに期限付き移籍した。すぐに定位置を獲得し、現在はリーグ10戦7発。強豪セビリアのBチームに所属した昨季は、トップチームのFWに負傷者が出たこともあり念願のスペイン1部デビュー。その活躍で、自信は確信になりつつある。

 指宿

 チームで結果が出ていますから。今まで自分が培ってきたものに、自信があります。徐々にですが1ステップ、1ステップ、上がってきている。いきなり3ステップ先を踏むことを考えるのではなく、特に僕ら若手は試合に出て、数をこなしていかないと成長しないことも分かっているので。自分を見つめながら、やっています。

 どうしても、聞いておきたいことがあった。日本代表への思い、そしてW杯への思い-。ザックジャパンは、深刻なFWの駒不足に陥っている。故障で10月の欧州遠征を離脱した主力FWの前田は既に31歳。ハーフナー・マイクも存在感を出せず、10月16日ブラジル戦は本田や香川をFW起用する事実上の「ゼロトップ」で臨んだ。指宿は恵まれた体格を生かし、最前線でつぶれ役になれる。それだけでなく、自ら点も取れる。日本代表には少ない正真正銘のセンターフォワード。今の日本には、そんな新星候補の出現が待たれる。

 指宿

 今すぐに代表に呼ばれても、やれる自信はあります。もちろん14年(W杯)は行きたい。でも、14年を軸にして何かをやるのではなくて、僕にとって大事なのは普段のリーグ。もちろん代表に呼ばれたら最高ですけれど、選ばれなくてもネガティブになるということはないです。W杯には出たい。その思いはありますけれど、それよりも本当の、一流の選手になりたい。W杯が最終地点だとは思っていないですし、そこに比重を置いてはいないです。

 W杯が最大の目標ではない-。では、目指す到達点はどこか。オランダ2部VVV時代、08-09年に16得点を挙げて1部昇格へ導いたMF本田圭佑になぞらえ、現地では「本田の再来」と呼ぶ人もいる。世界基準の価値判断を持っているところも、どこか本田に似ている。

 指宿

 やるからには、1番にならないといけないと思っています。ビッグクラブに行きたい。スペイン、プレミア…。センターフォワードとして、主要なリーグで、スタメンに定着したいです。ちゃんとしたFWで、結果を出している(日本)人は、今までにいないですから。FWとして大事なのはゴール。どのチームに行ってもゴールを決めたい。

 夢の通過点に、14年W杯がある。本田、長友、香川…。世界に通用する「個」が出現し、W杯優勝を自然と口にするようになった。その中で、W杯を通過点ととらえる若者もいる。そこに、頼もしさを感じずにはいられない。

 指宿

 いつ代表に呼ばれてもいいように準備はしています。(W杯には)出られるだろうとも、思っている。確かに、出ないといけないですよね。クラブで結果を残していけば、代表は付いてくるもの。だから(クラブで)試合に出て、やり続けないといけない。

 本来なら、欧州主要リーグの1部に所属してもおかしくない人材だ。だが、たとえ2部でも試合に出続けることを選んだ。長身の日本人FWが、欧州ビッグクラブ移籍を果たすのも、そう遠くはないだろう。ベルギーの田舎町で積んだ経験が、血となり、肉となって。【取材、構成=益子浩一】

 ◆指宿洋史(いぶすき・ひろし)1991年(平3)2月27日、千葉県流山市生まれ。小学時代から柏の下部組織に所属しジュニアユース、ユースと昇格。U-16(16歳以下)日本代表など各世代の代表に選出された。高3の08年にスペイン2部ジローナの入団テストを受け、翌09年1月からプロ契約。同9月にはRマドリードの傘下カスティーリャ(3部)の移籍が発表されながら、最終交渉で破談になった。同10月にレアル・サラゴサB、10年8月にCBサバデルに期限付き移籍、昨夏にセビリアに完全移籍。当初はBチームのセビリア・アトレチコに所属も、昨年11月にトップ昇格。念願のスペイン1部デビューを果たした。今年8月にウーペンに期限付き移籍。197センチ、87キロ。