<J1:浦和1-3柏>◇最終節◇3日◇埼玉

 新たな歴史をつくった。勝ち点1差で首位に立っていた柏が、敵地で浦和に快勝し、J史上初の昇格初年度優勝を果たした。前半29分にMFジョルジ・ワグネル(33)の高速シュートで先制すると、危なげない試合展開で逃げ切った。名古屋、G大阪も優勝の可能性を残した最終節で、文句なしの自力V。ネルシーニョ監督(61)と固い絆で結ばれたチームは高い競争意識の中、快挙を達成した。柏はJ王者として8日開幕のクラブW杯に出場する。

 ピッチのあちらこちらで笑顔があふれていた。ベンチ前ではネルシーニョ監督を中心にスタッフの輪が幾重にも重なる。監督を4度の胴上げ。「監督を男にしたい」。先発メンバーだけでなく全員がチームのために戦ってきた。日々の練習から全力で取り組み、勝利という目標に向けて努力を重ねてきた結果だ。

 打たれたシュートはわずか4本。素早い攻守の切り替えから、鋭いカウンターを繰り出す。得点はセットプレーからだったが、2年間積み上げてきたスタイルで浦和を粉砕した。

 前節C大阪戦から2トップを変更した。大黒柱のFW北嶋を外してFW田中、工藤へ。人情だけでは勝てない。能力や役割を考えての決断だった。ベンチで優勝を見届けた北嶋は「かみしめる思いが強かった。魂に響きました」と涙を流した。「この優勝の景色がやみつきになるんだろうな」と、11年前に最終節で逃した頂点の居心地を感じていた。

 「絆」。柏には切っても切れない強い絆がある。09年7月、「柏レイソルを助けてくれ」という電話にネルシーニョ監督は即答した。選手は誰がいるか何も聞かず、前体制をそのまま引き継いだ。その年に降格を味わったが、長期にわたるチーム強化を掲げ、多くの選手がチームに残った。スタメンを外されても誰ひとり腐らない。主将のMF大谷は「練習で100%を出さない選手は試合に出る資格はない。出ている人は責任を感じてやっている」と話した。

 選手編成にも気をかけた。サッカーの能力はもちろん、人柄や性格も重視。MF兵働、MF安ら他クラブで主将経験のある選手が多く集まった。選手層が厚くなれば、それだけ不満がたまりやすくもなる。小見統括ダイレクターは「試合に出られなくても誰かに見られているという意識がある」と話す。チャンスは全員に与えられていたから、仲間のために走り切れた。

 ネルシーニョ監督には日本を代表する思いもあった。震災に見舞われた特別な1年。「日本にいた人全員に忘れられない経験だった。被災地の人たちと完全に復興するまで、日本にいる間、努力していこうと思っている」と真剣なまなざしだった。今度はクラブW杯に日本代表として乗り込む。「まだ1つ目のタイトル」と興奮する周囲をなだめるようだった。

 今日4日は柏駅前でサポーターへ感謝の言葉を述べる。2度のJ2降格というつらいときも共に戦ってきた。大谷は「キタジさん(北嶋)みたいにどん底を見ている人が優勝できたので素晴らしいことだと思う。僕も(入団から)9年は長かった」と笑顔を見せた。ベテラン、若手、スタッフ全員が気持ちをひとつにできたからこそ。柏が悲願を達成した。【加納慎也】

 ◆J1昇格初年度V

 昨季J2の柏が、Jリーグ史上初となるJ1昇格1年目で優勝。これまでの昇格初年度の最高順位は10年C大阪の3位だった。イングランドでは77-78年にクラフ監督が指揮したノッティンガムが、ドイツでは97-98年にレーハーゲル監督が率いたカイザースラウテルンが、この偉業を達成している。

 ◆「後発組」のV

 柏はJ1初優勝。V川崎(現東京V)、横浜、鹿島、磐田、G大阪、浦和、名古屋に次いで8チーム目。柏は95年からJリーグに参入した「後発組」で、93年のJ発足10チーム(横浜Fは消滅)以外では、94年参入の磐田に次いで2チーム目。