FWギャレス・ベール(26=Rマドリード)やMFアーロン・ラムジー(24=アーセナル)らを擁するウェールズ代表が、悲願の欧州選手権本大会初出場を決めた。

 10日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦には0-2で敗れたが、他会場の結果により、本大会出場権を得る予選B組2位以内が確定した。

 ウェールズはこれまで大きな国際大会とはほぼ無縁だった。W杯も、ベスト8に入った58年スウェーデン大会に出場した経験があるだけ。

 それだけに選手たちの喜びもひとしおで、試合後にはベールが「人生最高の敗戦だ!」と興奮した様子で話した。

 そんなウェールズ代表の様子を、感慨深く見守っていた1人の男性がいた。ロジャー・スピードさん。同代表の前監督で、42歳の若さで亡くなった故ギャリー・スピードさんの父親だ。

 ロジャーさんは英BBCのインタビューに答え、「ウェールズがついに快挙を成し遂げて、とてもうれしく思う。そして選手やファンから息子ギャリーの名前が聞けたことを、本当に誇りに思う」と話した。

 悲劇は11年11月に起きた。当時、ウェールズ代表を率いていたスピードさんが死去したと、同国協会が発表した。自宅で首をつっていたのを地元警察によって見つけられたという。

 スピードさんは現役時代にウェールズ代表で85試合に出場した。ボルトン時代には元日本代表の中田英寿氏ともプレー。10年12月に代表監督に就任していた。

 優しい性格で思慮深く、選手からの信頼も厚かった。一方で物事を深く考えるタイプの人間はうつ病に掛かりやすく、スピードさんも精神的な落ち込みによって、自ら命を絶ったとみられている。

 だが現在ウェールズを率いるコールマン監督が言うように、スピードさんも代表の礎を築いた1人であることは間違いない。

 FWハル・ロブソン・カヌ(26=レディング)はボスニア・ヘルツェゴビナ戦前に「本大会出場はスピード前監督への最高の弔いになる」と話していた。

 同FWによると「前監督は、勝利への渇望や頂点へ立ちたいという意欲、そしてそのためにベストを尽くすことをチームに植え付けた」という。

 スピードさんは天国で喜んでいるに違いない。そしてウェールズの本大会での快進撃を期待しているだろう。

 「ここで立ち止まってはいられない。まだフランスで大仕事が待っている」というベール。その言葉に、スピードさんがチームへ残した勝利への意欲が表れていた。

 【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)