<世界陸上>◇16日◇男子100メートル決勝◇ベルリン五輪スタジアム

 驚異的な走りで世界の度肝を抜いた北京五輪の男子100メートル決勝からちょうど1年。進化したウサイン・ボルト(22=ジャマイカ)が人類初の9秒5台に突入する9秒58の世界新で、自身の記録を0秒11も更新した。「誇りに思うし、とてもうれしい。特別な気持ちだ」。満員のスタンドの大歓声を浴び、軽妙なダンスとおなじみの「弓矢のポーズ」で喜びを爆発させた。

 好スタートから前半で早くもトップに立った。200メートルの世界記録も持つ後半型。「50メートルを過ぎてからは自分の強みなので、もう抜かれないと思った」と力強いストライドで差を広げた。右隣のレーンのゲイを肩越しにちらりと見ると、左手の電光掲示に視線を移してゴールを駆け抜けた。

 無風だった北京に対し、0・9メートルの追い風が後押しした。だが、大幅な記録更新の裏には、五輪後の徹底したスタート強化がある。ピストルへの反応時間は五輪決勝で0秒165だったが、この夜は0秒146。準決勝では0秒135で反応し、苦手克服の成果が表れた。

 人気者になった五輪後の各種イベント出席でトレーニング開始が遅れ、4月末には愛車を大破させる自動車事故で足に軽傷を負った。「今季は山あり谷ありだった」と振り返るが「世界選手権になれば準備はできている」とも。大舞台になるほど力を発揮する勝負強さで、5選手が9秒台を出したハイレベルな争いの主役を譲らなかった。