今年の注目は何と言ってもタイガー・ウッズだ。昨年12月に行われたヒーローワールドチャレンジで復帰し、世界ランクの上位ランカーたちを相手に4日間を戦い抜いた。

 それより約1カ月前のPGAツアー開幕戦、セーフウェイオープンを直前で棄権したことで、復帰の先送りがうわさされたが、トップレベルの選手と互角に戦うまでにコンディションは回復している。

SBSチャンピオンズに出場している松山英樹(AP)
SBSチャンピオンズに出場している松山英樹(AP)

●タイガーはメジャーで”いくつ”勝てるか


 とはいえけがの具合や年齢的な問題から、以前のように頻繁に参戦するとは考えにくい。休養中に本人も述べていたが、ツアーに復帰するのはメジャーの勝利数を積み重ねるためだ。そういった理由からウッズは、今季メジャーを始めとした大きな大会に照準を絞って出場するだろう。当然疲れもたまりにくい状態でその大会のためにコンディションを調整するので、その実力を遺憾なく発揮するはずだ。

 さらに現在タッグを組んでいるコーチ、クリス・コモの存在も心強い。ウッズはこれまで多くのコーチに師事してきた。そのコーチたちはタイプは違えど自らのメソッド(理論)を持っているコーチが多かった。ウッズが高い適応能力を持っていたことで、特性の異なるそれらのメソッドに合わせる事ができたが、体の動きを変化させることでそれが負担となりけがにつながった可能性も高い。その点、コモは選手の特性に合わせてパフォーマンスを最大化するタイプのコーチだ。ウッズに合ったスイングや調整法を教えるため、けがの再発リスクが低くなる。

 唯一、心配すべきは試合勘だろう。メジャーの最終日最終組でベストパフォーマンスを出すには、やはり実践でプレッシャーがかかる場面でプレーする必要がある。

 当初は苦しむだろうが、ウッズにはこれまでの経験がある。それが必ず生きるはずだ。


●メジャー初優勝は誰が飾るのか


 昨年、メジャーを制覇した4人は、いずれもメジャー初優勝だった。ダスティン・ジョンソン、ローリー・マキロイ、ジェイソン・デイの3人が頭ひとつ抜け出ているが、圧倒的な王者はいない。そういった状況からこれまでメジャー優勝未経験の選手が、メジャー初優勝を飾る可能性は高い。


 注目はやはり松山英樹だ。PGAで戦うプロやコーチをたちは松山はすでにメジャーに勝つ実力を備えているという。実力はありながら結果がでないのは、経験が不足しているためだ。メジャーでの優勝争いを経験することができれば、そのプレッシャーの耐性ができ、どんな状況でもベストパフォーマンスを出すことができるだろう。

 もう一人の注目はブライソン・デシャンボーだ。若干23歳ながら昨年アマチュアで望んだマスターズでは23位、プロ転向後の全米オープンでは15位とメジャーで上位に食い込んでいる。大学時代、全米アマチュア選手権を制したことからも、大舞台でのプレッシャーに強いタイプなのだろう。

 ジュニアの頃からマーク・シャイというコーチに師事しており、そのシャイから『ゴルフィングマシーン』を紹介された。『ゴルフィングマシーン』はゴルフスイングを物理学の観点から体系的に分析した書籍で、ティーチングプロでもその内容を理解すること難しい。理論派を自称するデシャンボーはこういった理論や生体力学を自ら学びスイングの構築に生かしている珍しいタイプの選手だ。

 アイアンをすべて同じ長さにそろえるなど、前例にとらわれない方法でメジャー制覇に挑む。

昨年のブリヂストンオープン練習日、レーザービームでグリーンを読むデシャンボー
昨年のブリヂストンオープン練習日、レーザービームでグリーンを読むデシャンボー

●ライダーカップで活躍した2人


 昨年行われた米国選抜と欧州選抜で争われるライダーカップで、輝きを放った2人の若手も注目だ。

 米国選抜の一員として出場したパトリック・リード。スーパーショットと観客を巻き込むパフォーマンスでアメリカチームのエースとして大活躍した。特に最終日はローリー・マキロイを撃破し、マッチプレーでその強さを遺憾なく発揮した。こういった勝負強さはメジャーを勝つ上では欠かせない能力だ。パフォーマンスコーチ、ジョシュ・グレゴリーとタッグを組み、年々実力を高めてきている。

 もう一人は欧州選抜のトーマス・ピータースだ。ピータースはヨーロピアンツアーを主戦場にしている若手だが、メジャーの優勝争いに絡んでくる可能性が高い。

 現代的なクセのないシンプルなスイングで、ショットの正確性も高い。平均311ヤードのヨーロピアンツアー屈指の飛距離も魅力だ。

 3年ほど前から教わっているコーチのピート・コーウェンからは「かなりの有望株」とのお墨付きもある。ベルギー代表として出場したリオ五輪では4位に入るなど、大舞台でのプレッシャーにも強い。


 有力なベテランが復活し、そこに実力をつけてきた若手が割って入ると、世界ランクの上位者たちもメジャー制覇が難しくなる。

 今年もレベルの高い戦いがみられそうだ。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)