<米男子ゴルフ:マスターズ>◇最終日◇11日◇米ジョージア州オーガスタ・ナショナルGC(7435ヤード、パー72)

 【オーガスタ(米ジョージア州)=阿部健吾】「史上最強レフティー」フィル・ミケルソン(39=米国)が4年ぶり3度目の頂点に立った。首位と1打差の2位から、5バーディー、ノーボギーの67で回り、通算16アンダー272で逆転勝ち。乳がんで闘病中のエイミー夫人が約1年ぶりにコースで見守る中、苦しみをともにしてきた家族にささげるメジャー通算4勝目を挙げた。

 30秒間、ミケルソンはエイミー夫人を抱き締めた。最終18番をバーディーで締めくくり、スコア提出所に向かう途中。サングラスの下に涙をためた夫人と唇を合わせると、3人の子どもたちにも腕を回した。熱狂するパトロン(観客)の祝福の中で、5人だけに許された至福の時。「何て言葉にしていいのかわからない…。すばらしく、感動的な時間だった」。乳がんと闘う夫人を、家族で支え合ってきた1年。名選手の仲間入りをする3度目のグリーンジャケットをまとう、最高の喜びが待っていた。

 昨年5月に夫人の乳がんが発覚し、7月から治療生活に入った。同月の全英オープンを欠場するなど、迷わず家族と過ごす時間を大切にした。大会に出ても、1人で遠征し、長電話をするのが日課になった。試合では乳がんの早期発見を推進する運動のシンボルマーク「ピンクリボン」がプリントされた帽子をかぶる。

 「彼女にとってはタフなことだった」。夫人は体調が思わしくない中、約1年ぶりに試合に帯同していた。負担をかけぬよう、現地入りを6日まで遅らせ、練習ラウンドを犠牲にした。前夜はローラースケートで転んで頭部に骨折の疑いがあった長女に、深夜1時まで付き添った。プレーへの影響よりも、家族を守ることを優先した。そして優勝する姿を見せることが一番の励ましと分かっていた。

 アーメンコーナーの12番パー3。9番アイアンでピン上6メートルにつけた。メジャー初制覇を成し遂げた04年最終日と、同じフックライン。「今週はオレの週だ」。そう確信した。6年前と同じようにバーディーパットを沈めて抜け出した。第1打を右林に曲げた13番パー5では、積もった松葉、前方1・5メートルにある松を恐れず、残り207ヤードから6アイアンを強振。「自分のスイングを信じた」と松の間を抜きピン右1メートルへ。イーグルは逃したが、バーディーで勝負を決めた。

 愛人騒動からの復帰戦だったウッズの話題に終始した大会で、私生活では対照的な39歳の勝利。「残りの人生で何度も振り返る時間になる」と万感の思いが込み上げた。夫人は今後も闘病生活を続けるが、昨年欠場した全英オープンについて前向き。1人の愛妻家の、ゴルフと病魔との闘いは続いていく。