井村マジックで危機を脱した。第8日(7月31日)のシンクロナイズドスイミングのチーム・フリールーティン(FR)決勝で、日本(乾、三井、中村、箱山、吉田、中牧、丸茂、林)は93・9000点で銅メダルを獲得した。第7日(同30日)のデュエット・FRで4位に終わったが、井村雅代ヘッドコーチ(HC、64)が24時間で立て直した。今大会では五輪に関係する計4種目で3つの銅メダルを獲得。世界の5番手から3番手に浮上したことを印象付け、来年の五輪に弾みをつけた。

 4位に終わったデュエット・FRから、翌日のチーム・FR決勝までにチームの動揺を静め、どう立て直すか。連続で表彰台を逃せば、上昇ムードは消え、来年五輪でのメダル獲得の可能性も低下する。井村HCは「山があって谷がある。それが試合」と練習のため、サブプールに向かいながら、冷静に作戦を練った。

 (1)状況把握 チーム・FR決勝の演技順はロシアの次。大歓声が巻き起こった直後の演技は、完全アウェーの雰囲気になる。本会場で行われた混合デュエット・FR決勝でロシアが優勝すると、井村HCは練習を中断。「明日の決勝では、これよりもっと歓声が上がる。聞きなさい」と指示。乾は「想定することで心構えができた」と効果はてきめんだった。

 練習後、選手村に帰ってミーティングを行う。

 (2)闘争心 「むかつくなあ」と、不可解なジャッジへの不満を正直に出す。そして「腹が立つのは当たり前。腹を立てなさい。このままで終われへんやろ」と選手の闘争心に火を付けた。

 採点競技のシンクロの場合、納得できない結果は日常茶飯事。不条理な結果を受け入れることも求めた。

 (3)説得 「社会では自分がちゃんとしていても認められないことはいっぱいある。そのときにやけになったら終わり。黙々と正しいことをやり続ければ認められる。この悔しさをずっと忘れるな」とミーティングを締めた。

 チーム・FR本番で選手たちは気迫の演技を披露した。三井が「最後まで粘って勝ちたいと思った」と言えば、丸茂は「手も足もちぎれてもいい」と攻めの姿勢を貫いた。ライバルのウクライナを抑え3個目の銅メダルを獲得。表彰式後、喜びもつかの間、井村HCは「今日も(午後)9時まで練習。下手なものは練習せなあかん」とプールに向かった。【田口潤】