「柔道界の沙羅ちゃん」が有言実行した。昨年12月のグランドスラム(GS)東京とGSパリで優勝した朝比奈沙羅(20=東海大)が決勝で田知本愛(28)に優勢勝ちを収め、初優勝。世界選手権(8~9月、ブダペスト)の代表に初選出された。

 176センチ、135キロの体が突進し続ける。前大会準優勝でキレ味鋭い足技を得意とする田知本に攻める、攻める。会場からは「沙羅ちゃ~ん」コールもあった。開始4分50秒、払い巻き込みで有効を奪い、優勢勝ちした。「心身ともにきつい試合が続いたけど、ここで勝たないと世界はないと思った」。15日の前日会見では田知本やリオデジャネイロ五輪78キロ超級銅メダルの山部佳苗(26)を前にして「世代交代の時期」と“下克上宣言”し、その通りの結果となった。

 有言実行となったが、決勝での体力は極限状態だった。2回戦から準決勝までの4試合の試合時間は計28分59秒。今大会は旗判定廃止や時間無制限の延長戦導入など国際柔道連盟(IJF)の新ルールを一部採用した影響もあり、3試合も延長戦となった。

 特に、4回戦の「沙羅対決」の際に体力を消耗した。1日の全日本選抜体重別選手権1回戦で敗れた“因縁”の山本沙羅(22)との試合では11分45秒を要した。「ハイ~ッ!!」と、声は出すが、山本の背中が畳に付かない。徐々に体力を奪われ、体重が40キロ重い朝比奈が投げられる場面も多々あった。「フラフラで視界がかすむぐらい厳しい試合だった。2回連続で負けたたらダメだと思ったし、直前に組み手の研究をしたのが良かった…」と苦笑いした。

 前へ、前へ攻める柔道を心掛けた。試合直前には両手で顔をビンタして、力強いすり足で気合を入れるの特徴だ。2週間前の悔しさも残るが、気持ちを切り替えるために髪も切った。「『世界は朝比奈で頼むぞ!!』と、言ってもらえる選手になりたい。勝ち続けたい」。そこには、一回り成長した朝比奈がいた。