真央さんの「挑戦」の意志を引き継ぐ。フィギュアスケートソチ五輪男子金メダリストの羽生結弦(22=ANA)が16日、仙台市内で行われたイベントに参加し、現役引退した浅田真央さん(26)への思いを語った。自身のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の師であり、長年フィギュア界を引っ張ってきた真央さんを「挑戦の象徴」とたたえ、その意志を継いでいくことを誓った。

 グレーのスーツ姿で壇上に立つ羽生は、それまで“浅田さん”と呼んでいたのをやめ、最後に“真央ちゃん”と呼んだ。「自分のジャンプを跳ぶたびに、浅田…、うーん、なんといえば…、真央ちゃんでいいかな、心の中に生きているんだと思います」。

 跳ぶたびに、生きる。その言葉通り、羽生が最も愛し、武器とするトリプルアクセルは元をたどれば浅田さんに行き着く。中学1年まで、45分間のジャンプ練習時間すべてを費やしても、トリプルアクセルだけは跳べなかった。初めて成功したのはジュニア(13~18歳)に上がる直前の08年夏、長野・野辺山で行われた全日本合宿。浅田さんらシニアの先輩たちと一緒に滑り、喜々として彼らを観察していた。浅田さんの、力まないふわっと浮き上がるジャンプを見て「力っていらないんだなぁ」と驚いた。まねて軽く踏み切ると、跳べた。成功したのは1回だけだったが、氷の上を転げ回るほどうれしかった。それから9年。「浅田さんのおかげ」と感謝の思いは消えない。

 引退を知った10日夜は、落ち込んで眠れなかった。浅田さんについて、考え抜いて出た答えは「挑戦の象徴」。浅田さんは、現役最後のシーズンまで限界を定めず、自分ができる最高のプログラムに挑もうとしてきた。その姿は、新たな4回転ジャンプやスケート技術を磨き続け、挑戦することに生きる羽生に重なる。しかも、技をこなすだけでなく、それを難しく見せず華やかに演じる天性もあった。その才能に「ずっと憧れてきた」と語った。

 今月5日に発表されたアスリートイメージ調査では「華やかなアスリート」で1位が浅田さん、2位が羽生。2人がフィギュア人気を支えてきたが、11日に羽生は浅田さんにこう言葉を贈っている。「これからもずっと私の憧れの人です。たくさんの夢をありがとうございました」。羽生にとってのスターが浅田さんだった。【高場泉穂】