<レスリング:ロンドン五輪男子フリースタイル60キロ級代表最終選考会>◇7日◇東京・駒沢体育館

 夏季五輪28年ぶりの双子代表だ!

 北京五輪銅メダリストで昨年世界選手権3位の湯元健一(27=ALSOK)がプレーオフを制し、ロンドン五輪代表に決まった。4人で争う選考会で、五輪出場枠を獲得したアドバンテージから1勝すればいい湯元健は、1度は前田翔吾(24)に敗れるも2戦目で勝利。フリー55キロ級で双子の弟進一(自衛隊)も代表に決定しており、夏季では84年ロサンゼルス五輪の宗茂、猛以来、日本レスリング界では初の双子の五輪代表が誕生した。

 湯元健は試合後も鬼の形相を崩せなかった。「『双子で五輪だ』と、それを最初に思った。家族も五輪に連れて行ける。本当にうれしいです」。重圧から解放された目は、潤んでいた。

 昨年の世界選手権で五輪出場枠を獲得し、プレーオフは1勝すれば良かった。だが、直前の五輪予選で進一が一足先に五輪切符を獲得。「自分は湯元家の長男。進一に置いていかれたくない」と重圧がかかった。1戦目。勝ち上がってきた前田に1-2で敗れた。後がなくなった。

 勝った方が五輪という2戦目直前。弟に怒鳴られた。「ほかのヤツを(五輪に)行かす気か?

 攻めろ!」。右股関節肉離れで入院し、この日は外出許可を取って支えてくれる進一の言葉に目が覚めた。第1ピリオド(P)を取って迎えた第2P。鋭い両足タックルを決めた。試合後「1試合目はぶん殴ってやろうかと思ったよ」。進一流の祝福に、笑った。

 2日前に1歳になった長男琥太郎くんに、父の役目を果たした。そして、5年越しの兄弟同時出場もかなう。五輪の試合日程は進一の翌日が健一。「今日みたいに先に重圧をかける」と弟。兄も「メダルの色は1つでも負けたくない」。激しい“双子げんか”が、男子レスリング24年ぶりの金メダルに、つながっていく。【今村健人】

 ◆兄弟の五輪同時出場

 双子の同時出場は夏は84年ロサンゼルス五輪の宗茂、猛、冬ではノルディック複合の荻原健司、次晴がいる。兄弟に広げれば68年メキシコ五輪の重量挙げに三宅兄弟が出場。兄義信が金、弟義行は銅メダルを獲得した。96年アトランタ五輪では柔道で中村3兄弟が出場し、長男佳央は準々決勝敗退も次男行成は銀メダル、三男兼三は金メダルに輝いた。姉妹ではレスリングの伊調千春、馨姉妹が04年アテネ、08年北京五輪に出場。兄妹ではアテネ五輪陸上ハンマー投げの室伏広治、由佳や、06年トリノ五輪スノーボードHPの成田童夢、今井メロらがいる。

 ◆湯元健一(ゆもと・けんいち)1984年(昭59)12月4日、和歌山市生まれ。弟進一と9歳からレスリング開始。和歌山工高-日体大-ALSOK。08年北京五輪銅メダル。11年世界選手権3位。10年に淳子夫人と結婚。昨年長男琥太郎くん誕生。165センチ。

 ◆湯元進一(ゆもと・しんいち)1984年(昭59)12月4日、和歌山市生まれ。和歌山工高後は兄健一と別の進路を歩み、拓大進学。4年時に国体で優勝した。卒業後は自衛隊体育学校所属。09、11年世界選手権代表。全日本選手権は3度優勝。164センチ。