日本柔道が最悪の事態に陥った。柔道女子日本代表の園田隆二監督(39)らの選手への暴力行為発覚を受けて、全日本柔道連盟は30日、都内で会見した。19日に同監督とコーチ陣を戒告処分としたことを明かし、今後もこれ以上の処分なく現体制を維持すると発表。代表選手ら15人が体制見直しを求めた日本オリンピック委員会(JOC)への直訴は空振りに終わった。体罰への厳しい処分が常識化する現状では「大甘」ともとれる裁定。3年後のリオデジャネイロ五輪へ、選手と監督、全柔連の溝は深まる一方だ。

 午前11時からの会見、全柔連の小野沢弘史専務理事は「お騒がせして申し訳ありません」と、深々と頭を下げた。詳細な経過説明はあったものの、今後の強化体制については耳を疑う言葉が飛び出した。「現時点で変えることは考えていません。2月5日からの欧州遠征も予定通りです」。テレビカメラ14台が並ぶ会見場に異様な空気が流れた。

 全柔連は、すでに19日に園田監督とコーチ陣を戒告処分とした。全員を呼び、1人1人に上村春樹会長から戒告を伝える文書が渡された。「園田監督は指導力も情熱もある。十分に反省し、2度と暴力は振るわないと言っている」と小野沢専務理事。園田監督以下の現体制で、次の五輪を目指すことを強調した。

 全柔連としては倫理推進部会の判断を優先し、今回の処分を決めている。強化合宿中の14日には、園田監督が選手らに「思っていることを、すべて言ってほしい」と要望。厳しい言葉も出たが、これで雪解けだとも思われていた。19日には全柔連から選手に対して園田監督らの戒告処分が伝えられ「2度と暴力は行わない」ことも徹底された。

 再発防止に向けて強化委員会内に「強化支援ステーション」設置を決定。練習環境改善など選手の相談窓口とすることも決めている。「不退転の決意で、行きすぎた指導がないようにする」と小野沢専務理事。しかし、JOCに提訴した選手らにとっては、すべてがむなしいものでしかない。

 選手らは昨年12月25日、JOCの女性専門部会にメールで嘆願書を送った。告発はしたが反応が遅く、もう待てなかったのだろう。「倫理の見直し」「問題解決までの合宿凍結」「第三者の調査」の3点を挙げ、体制見直しを求めた。今月10日には4人、27日には5人の選手が直接JOCに出向いて訴えるなど、悲壮な行動を続けていた。

 午後4時から会見した上村会長は「現体制を一掃するのは簡単だが、それではわだかまりが消えない」と話した。しかし、現体制のまま前へ進むことでわだかまりが消えるのか。2月にはリオ五輪への第1歩となる欧州遠征が行われる。すでに第1陣は29日に出発。スポーツ界での指導方法に国民の目が注がれている中、日本のお家芸と言われてきた柔道界で起きた大きなスキャンダルだ。今後も社会的に注目される。監督への不信感も消えぬままに動きだしてしまった。

 上村会長は「今後、選手から要望があれば話を聞くこともある」と言い、新たな事実が発覚した場合には「違う処分が下る可能性もある」とした。大阪市立桜宮高の例を出すまでもないが、体罰に対して厳しく臨むのが今の常識。それを大きく逸脱する「戒告だけ」という決定が、覆される可能性はある。「監督も選手も将来があるから」と上村会長は話したが、本当に将来を考えるなら、徹底した調査で真実を明らかにし、互いに納得のいく結論を出すこと以外に道はない。【荻島弘一】◆柔道女子の暴力問題経緯08年8月

 

 

 

 

 

 北京五輪で柔道女子は金メダル2個08年11月

 

 

 

 

 女子代表に園田監督就任10年8月

 

 

 

 

 

 全柔連が把握した最初の暴力行為

 

 

 9月

 

 

 

 

 

 東京で世界選手権、女子は6階級制覇12年2月

 

 

 

 

 

 全柔連が把握した最後の暴力行為

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (10年8月~12年2月まで「死ね」、小突く、平手打ち、蹴るなど5件の暴力とパワハラ行為)

 

 

 8月

 

 

 

 

 

 ロンドン五輪で柔道女子は金メダル1個

 

 

 9月下旬

 

 

 

 全柔連が園田監督の暴力行為を認識

 

 

 11月10日

 

 園田監督が全柔連に始末書。厳重注意処分

 

 

 

 

 

 28日

 

 園田監督が当該選手に謝罪

 

 

 12月4日

 

 

 15選手がJOCに告発文書

 

 

 

 

 

 10日

 

 JOCが全柔連の上村会長に対応を要請

 

 

 

 

 

 21日

 

 全柔連が「倫理推進部会」を開催

 

 

 

 

 

 23日

 

 (※大阪市立桜宮高の生徒が体罰苦に自殺)

 

 

 

 

 

 25日

 

 15選手が全柔連の強化体制見直しの嘆願書をJOCに提出13年1月上旬

 

 

 

 (※桜宮高の体罰、社会問題化)

 

 

 

 

 

 10日

 

 JOCが4選手と面談

 

 

 

 

 

 19日

 

 全柔連が園田監督、コーチに戒告処分

 

 

 

 

 

 25日

 

 全柔連がJOCに調査結果、処分など報告

 

 

 

 

 

 27日

 

 JOCが5選手と面談

 

 

 

 

 

 28日

 

 JOCが全柔連に選手への聞き取りを要望(注)全柔連は全日本柔道連盟、JOCは日本オリンピック委員会