伝統競技レスリングを五輪除外の危機に陥れる衝撃的な決定の背景には、統括団体の国際レスリング連盟(FILA)の組織改革の遅れや五輪存続への努力の欠如があった。「今に始まったわけではない。国際競技連盟(IF)の問題だ。FILAは多くの項目でIOCの質問に答えられなかった」。審議を終えたIOCのウン副会長は思わせぶりに話した。AP通信が報じたIOCの評価報告で、ロンドン五輪での人気度は10段階の5に満たなかったほか、意思決定機関に選手代表が入っておらず、女性委員会がないなど組織体制の立ち遅れが指摘された。

 テコンドーは専属ロビイストを国際会議に派遣し、韓国オリンピック委員会(KOC)も協力。今月1日には訪韓中のロゲ会長と会談した朴槿恵次期大統領が五輪存続を直訴する力の入れようだった。KOC関係者は理事会前に「IOCの評価が最低なのは近代5種で次にレスリング」と情勢をほぼ把握していた。

 昨年7月のIOC総会では、国際近代五種連合(UIPM)副会長を務めるサマランチ前IOC会長の息子、サマランチ・ジュニア委員と、世界テコンドー連盟(WTF)倫理委員長のカルトシュミット委員がいずれも理事に当選。両競技は理事会に身内を送り込むことに成功した。

 FILAの福田富昭副会長が「寝耳に水だ」と話すなど、レスリングは危機感がなかった。IOCのヒッキー理事は「レスリングのロビー活動はゼロだった」と振り返った。

 ◆レスリング除外候補メモ

 IOCが12日、スイス・ローザンヌで行った理事会で、レスリングを20年五輪実施競技の除外候補に決めた。この理事会では、25の中核競技が決まり、16年リオデジャネイロ五輪から採用になったゴルフ、7人制ラグビーの計27競技の実施が確定。レスリングは、残り1枠を野球・ソフトボール、空手、ローラースポーツ、スカッシュ、スポーツクライミング、ウエークボード(水上スキー)、武術と争う。