鈴木誠の第1打席の打球音にこう感じた。「目をつぶって聞いたとしても、音だけで特大アーチと分かっただろう」。えげつない音だった。センターへの打球は素晴らしい伸びを見せ、それにもまして、コンパクトなスイングに目を奪われた。仕上がっている。いつ開幕してもOKという状態にある。

最高のポイントで球を捉えている。タイミング、フォームのバランス、そして力の入れ具合。インパクトの瞬間に最大出力を生むスイングをしている。例えばウサイン・ボルトの走りを想像してもらいたい。そのフォームは力んでいるようには見えないだろう。それと同じで、鈴木誠のスイングも周りから見れば力が入っていないんじゃないかと思うくらい、柔らかく映る。「さあ、いらっしゃい」というスタンスで、準備が出来ている。

相手の投球にピッタリのタイミングで合わせている。第2打席も中堅方向を意識した中で、カウント3-1からの5球目の内角球に反応し、腰でクルリと回って芯で捉えた。ファウルになったが、この体の反応はよい。結果は中飛だったが、それも逆風の中で見せた内容ある打撃だった。

捕手の立場からすれば、非常に危ない打者。これだけ鋭い振りで、あれだけ飛ばすのだから、今季の鈴木誠は本塁打はもとより、打率、打点でもハイレベルが期待できる。3冠王の期待すらできる仕上がりの良さだ。

今年は夏場に五輪を控えている。鈴木誠はおそらく侍ジャパンの4番を務めることになるだろう。体の強さ、スタミナからすれば、ペナントレース、五輪での活躍が大いに楽しみ。それこそ3冠王、チームとしての日本一、そして五輪での金メダル、この“トリプル1”が現実味を帯びてくる。(日刊スポーツ評論家)