ソフトバンク千賀滉大投手(27)が、巨人菅野智之投手(31)との最多勝エース対決を制した。

7回3安打無失点と巨人打線を完璧に抑え込み、シーズン3冠(最多勝、防御率、最多奪三振)の力を見せつけた。両投手を徹底チェックした日刊スポーツ評論家の上原浩治氏(45)は、パワーピッチングにとどまらない千賀の総合力を絶賛。軍配はパの超本格派にあがった。

2回裏巨人無死、丸を見逃し三振に仕留め雄たけびを上げる千賀(撮影・河野匠)
2回裏巨人無死、丸を見逃し三振に仕留め雄たけびを上げる千賀(撮影・河野匠)

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漠然と見ているだけでも、ソフトバンクの強さが浮き彫りになる試合だった。ではじっくり観察すると、どう感じるのだろうか? 正直、じっくり見たら、もっと両チームの実力差はあるように感じてしまう試合でもあった。

巨人は菅野でソフトバンクは千賀が先発。セ・リーグとパ・リーグを代表する右腕だが、両エースを比べてみても、千賀のパワーピッチングが菅野を上回っていた。

初回、菅野の投球に対し、2番打者の中村晃のスイングに嫌な予感がした。1死、カウント2-1からの149キロの内角の真っすぐに対し、打球は一塁側へフライのファウルになった。バッティングカウントでもあり、真っすぐを1、2の3で振っていい状況。速い真っすぐに振り遅れないようにスイングしたが、思ったよりスピードがなかったような形でのファウルだった。

6回表ソフトバンク2死一、三塁、栗原に中越え2点適時二塁打を浴びる菅野(撮影・横山健太)
6回表ソフトバンク2死一、三塁、栗原に中越え2点適時二塁打を浴びる菅野(撮影・横山健太)

結局、フルカウントから152キロのど真ん中の真っすぐを打って、三塁側のファウルフライ。しかし、この打球もこすって打ち損じただけ。タイミング的には直前のファウルと同じようなタイミングだった。

パワーピッチャーの多いパのレベルの高さを象徴していた。菅野の最大の武器は制球力抜群のスライダーだが、真っすぐの威力もセの中ではトップクラス。しかしソフトバンクの打者のスイングを見ていると、それほど苦しんでいるようには見えず、どの打者も思い切ったスイングをしていた。普段からパワーピッチャーとの対戦に慣れている力強さを感じた。

一方、千賀の真っすぐに対して、巨人の打者は力負けしていた。3回無死一塁、9番の大城は7球のファウルを挟み、12球も投げさせたが、フェアゾーンに打ち返すというより、何とか真っすぐをファウルにして球数を投げさせ、四球になればラッキーという内容で食らい付くのが精いっぱい。4回には2者連続四球で無死一、二塁のチャンスを迎え、打者は5番の丸だった。

スライダーが2球続いてボール。真っすぐ1本に絞って打ちにいける状況だが、見逃せば外角低めのボール球を打って最悪の遊ゴロゲッツー。真っすぐ1本に狙いを絞っていたにもかかわらず押し込まれていたし、ボールを見極める余裕も感じられなかった。

千賀のすごさは、投げているボールだけではない。勝てるピッチングを理解している。

先制点を取った直後の2回は、力を見せつけるようなピッチングで2奪三振で3者凡退。得点した直後のイニングを全力で抑えるのは勝てる投手の特徴で、特に素晴らしかったのは先頭丸へのピッチングだ。フルカウントからの159キロの内角真っすぐは、今試合で一番いい球だった。さすがの丸も、手も足も出ず見逃し三振だった。

ソフトバンク千賀の全投球
○=直球 左向き三角=スライダー ▽=フォーク ◇=カットボール
ソフトバンク千賀の全投球 ○=直球 左向き三角=スライダー ▽=フォーク ◇=カットボール

2人のピッチングで明暗が分かれたのは、5番打者への結果だった。すでに紹介したが、勝負どころで丸を完璧に抑えた千賀に対し、菅野は栗原に痛打を浴び続けた。

今季は左打者の内角にカットボールやスライダーを投げて抑えてきたが、2回に打たれた2ランは内角のスライダーが甘く入ったもの。得点には結び付かなかったが、第2打席にも内角に甘く入った真っすぐを二塁打された。どちらも甘く入った球だが、この内角球を打たれたことが、6回の失点につながった。

2死一、三塁、カウント2-1から外角のフォークを左中間に二塁打され、致命傷の2点を失った。「内角を打たれたから外角」というのは最悪のパターンで、栗原には外角球を狙い打ちされてしまった。

無理に栗原と勝負しなくてもよかった。状況は一、三塁だが、追加点は与えたくない場面。ここでは「みえみえ」の外角勝負をするより、二、三塁で一塁が空いている状況と設定して、四球で歩かせることも頭に入れつつ勝負した方が良かった。一、三塁という状況が、バッテリーを惑わせてしまったと思う。

もともとの力差以上に、CSを勝ち抜いてきたソフトバンクに対し、巨人は独走Vで緊迫感のある試合から遠ざかっている。巨人が日本シリーズを制するには、菅野が投げる初戦の勝利が必要だと思っていたが、この敗戦で厳しくなった。(日刊スポーツ評論家)

巨人菅野の全投球
○=直球 △=カーブ 左向き三角=スライダー ▽=フォーク □=ツーシーム ◇=カットボール
巨人菅野の全投球 ○=直球 △=カーブ 左向き三角=スライダー ▽=フォーク □=ツーシーム ◇=カットボール