投手は9番目の打者、あるいは9番目の野手と言われる。DH制のあるメジャーやパ・リーグに比べれば、セ・リーグで投手が打って得点という確率は低いが、今年は投手がここという場面で打っている。

この試合でも高橋宏が石川から逆転のタイムリーを奪った。ヤクルトが1点を先制して迎えた2回、中日は1死満塁で打者高橋宏。京田に四球を与えた直後で、初球はツーシーム系が外れてボール。2球目はほぼ真ん中のまっすぐ。高橋宏は二塁を強襲する中前打で2者が生還。高橋宏の決勝打で逆転に成功した。

投手に打たれるのは、油断と言われてもやむを得ない。1死満塁で、高橋宏に対し、石川は野手並みのシビアな攻めをしたか。これがコントロールに不安のある投手ならば言わないが、石川は制球を備えたベテラン。初球変化球が外れ、満塁でカウント1ー0でも、変化球を続ける、もしくはまっすぐを選択するにも、コースを意識し、細心の注意を払うべきところだった。

私の目には他にも選択肢がある中で、簡単にほぼ真ん中というふうに見えた。内角にもきっちり投げ、盤石のピッチングで確実にアウトにすべきだった。

打者としての投手は、冷静に考えれば脅威にはならない。打撃センスのある投手もいるとは言われるが、投手の中では打つ方という評価であり、野手と比較すれば明らかに力は落ちる。

それでも、チャンスで投手が打つ面白さが野球の醍醐味(だいごみ)。打席に入る投手からすれば、己のバッティングで自分の身を助けるということだ。高橋宏は自分に初の勝ち星をつける値千金のバッティングをした。

3回裏には石川が三塁前の打球で必死に走り内野安打で出塁している。それぞれの投手が、自分を助けるためのバッティングをしている。対投手では、技術よりも意識の高さが重要になってくる。ベテランの石川には今更の指摘となる。反対に、若い高橋宏は9番目の打者としてしっかり働き、プロ1勝をつかんだのは印象的だった。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対中日 2回表中日1死満塁、高橋宏は中前に逆転の2点適時打を放つ(撮影・小沢裕)
ヤクルト対中日 2回表中日1死満塁、高橋宏は中前に逆転の2点適時打を放つ(撮影・小沢裕)
ヤクルト対中日 6回裏ヤクルト2死一塁、中日先発の高橋宏はオスナを三振に仕留め雄たけびを上げる(撮影・小沢裕)
ヤクルト対中日 6回裏ヤクルト2死一塁、中日先発の高橋宏はオスナを三振に仕留め雄たけびを上げる(撮影・小沢裕)