すごい。そんな言葉では安い。もっと最上級の表現はないかと辞書で探したが、見つけられなかった。

佐々木朗の前回登板の3日西武戦を球場で見た。打者への初球が上ずっていた。2球目からは制球され、修正能力自体も高いが、オリックス戦は初球の入りから制御されていた。連続奪三振の途中から打者は200%直球待ちの状況で良かった。だが球種を絞られても振り遅れのファウルしか飛ばない。威力があり、見せ球の必要もないから19奪三振を105球でなせる。

ルーキー捕手の松川とのコンビ。若いバッテリーで、どちらが主体でリードを考えているか。西武戦後に聞くと佐々木朗は「自分が主体で考えてます」と答えていた。実際にサインに首を振る場面も目立った。

だが、わずか1週間後の松川には成長を感じた。9連続奪三振がかかった4回1死。バレラにカウント1-2から内角直球のサイン。私は空振りの確率が高いフォークと思ったが、松川は第1打席でフォークを一ゴロに当てられた感覚があったのだろう。佐々木朗も一瞬、間を置いたが、女房役の意図を信じた。見逃し三振を奪い「お前の言う通りだ」と言わんばかりに人さし指を突き出した。この見逃し三振でバッテリー間の信頼感が高まった。

次の日本記録に挑んだ吉田正は球界で最も三振をしない打者だ。何を選択するか注目していたら、意表を突く2球連続カーブで追い込んだ。記録に浮かれることなく、1年目の高卒捕手がこれだけ冷静に状況を見ているのは、驚きだ。

27人目の杉本も3球連続フォークで決めた。最後にこの試合で1度も見せていないパターン。佐々木朗の勝負球は基本的に160キロ前後の直球と140キロ台後半の高速フォーク。2種類だが、打者への組み立てはすべて微妙に違った。配球に奥行きを感じた。

今後は相手の野球が変わってくるだろう。初回、ロッテの無死二、三塁、1死二、三塁の状況でオリックスは定位置の守備態勢だった。普通なら初回で最少失点は受け入れ、前進守備はしないが、佐々木朗に対しては1点勝負になる可能性が高い。それほどの力がある。

今は直球の質を求め、球種を絞っているが、スライダー、カーブも勝負球に加わったら、将来的に投手としてどんな域に達するのだろうか。体も未完成で、昨年の中10日の間隔から、今季はシーズンを通して通常の中6日に順応することも課題だ。伸びしろがあるから楽しみが増える。

テレビ観戦ではあるが、こんな試合に立ち会えて、久々に鳥肌が立った。途中で「初めて完全試合を見られるかも」と思ったが、自分も日本シリーズで完全試合を達成していたことを忘れるほど熱くなった(笑い)。だがこの1度だけではない。佐々木朗の投球には2、3度と特別な瞬間が訪れる可能性が十分にある。(日刊スポーツ評論家)

9回表オリックス2死、杉本を空振り三振に仕留め、完全試合を達成したロッテ佐々木朗(手前)にウイニングボールを届ける松川(撮影・狩俣裕三)
9回表オリックス2死、杉本を空振り三振に仕留め、完全試合を達成したロッテ佐々木朗(手前)にウイニングボールを届ける松川(撮影・狩俣裕三)