この日の西武戦では杉浦-宇佐見のバッテリーの無策な1球が際だってしまった。山川の2発で試合は決まった。いずれも初球を痛打されている。初回2死一塁。内角よりの真っすぐを左翼に運ばれた。

さらに痛かったのは3回1死一、三塁での3ランだ。杉浦はここでも初球スライダーを打たれている。捕手宇佐見もやや外寄りに構えただけ。前の打席では真っすぐを打たれている。杉浦には、今度は山川に変化球を狙われているとの、警戒感も見えない。宇佐見もより外へ、より低く構えるなどの配慮がほしかった。まさに無策とも言うべき1球だった。

新庄監督の打つ手は奇策や奇襲としてメディアに取り上げられることが多く感じる。奇策の意味を辞書で確認した。「人の予想もしない奇抜なはかりごと」とある。代表例としては4月16日ロッテ戦(11-4)での2ストライクからのスクイズ(成功)や、今月5日楽天戦(4-8)での1死三塁でのエンドラン(結果空振りで三塁走者はアウト)がある。

奇策のさらに上を行くのが妙策になる。「目的を達成できるような優れた策略」。つまり新庄監督の策は、相手の意表を突いてはいるが、勝利という結果になかなか直結していない。奇策を弄(ろう)しながら結果を出した代表例に仰木マジック、ボビーマジック、そして野村さんのID野球がある。

新庄監督の策は、勝利につながる妙策になっていかなければならない。開幕前の戦力を見た時に、レギュラーとして計算できるのは近藤だけだった。若手をどんどん起用し、ペナントの中で成長させながら戦う図式だった。勝つことよりも、育成に比重を置いたペナントになることは、ある程度予想できたことだ。

若手に期待しながら育てる。この方針は、開幕から毎試合打順を変えたところにも如実に表れている。35試合で35通りの打順だ。毎試合、今までにない打順を組んでいる。いかにベンチが最善の組み合わせを模索しているかだ。近藤を欠いてからは、猫の目打線になるのは必然とも言えた。

これでペナントのおよそ4分の1を消化した。開幕して35試合が経過。ここまで13カードを戦ってきたが、1勝1敗が3度あるものの、勝ち越したのは1回だけ。戦力的には厳しく苦戦は予想されたが、新庄監督もここまで苦しむとは想像していなかったのではないか。

奇策を妙策に昇華していけるか。そのためにはベンチの工夫だけでは勝利に届かない。選手もベンチの狙いを理解して、しっかり準備して1球に心を配らなければならない。ファンが試合を観戦して楽しむ。そのためのプロ野球だ。そして楽しむと思えることの最大の要因は勝つことになる。(日刊スポーツ評論家)

西武対日本ハム 3回裏西武1死一、三塁、山川に左越え3点本塁打を浴びる杉浦(撮影・黒川智章)
西武対日本ハム 3回裏西武1死一、三塁、山川に左越え3点本塁打を浴びる杉浦(撮影・黒川智章)
西武対日本ハム 試合前、新庄監督(右)に呼ばれ、山川(左)から打撃指導を受ける万波(撮影・黒川智章)
西武対日本ハム 試合前、新庄監督(右)に呼ばれ、山川(左)から打撃指導を受ける万波(撮影・黒川智章)